Chapter 24
レビューとチェックリスト — 出す前に、何を確かめるか
この章のゴール.
レビューを「詳しい人に見てもらう会」ではなく、 抜けを構造的に潰す工程として設計できるようになること。 そして、このシリーズ全体を 1 枚の地図としてまとめること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 出図(01 章 3 節)、基板アートワーク(01 章 1 節)、基板メーカ(01 章 4 節)、寄生成分(01 章 2 節)、製造・実装(01 章 3 節)、部品配置(01 章 3 節)、シルク(02 章 1 節)、エッチング(03 章 1 節)、DRC(04 章 1 節)、GND(05 章 3 節)、要求(05 章 5 節)、電源(05 章 3 節)、サーマルパッド(06 章 5 節)、フットプリント(06 章 1 節)、禁止領域(06 章 1 節)、スタブ(09 章 5 節)、電圧降下(09 章)、直列終端(10 章 7 節)、スキュー(11 章 4 節)、コンデンサ(12 章 3 節)、ドリル径(12 章 1 節)、スティッチングビア(13 章 4 節)、クロストーク(15 章 1 節)、ジャンクション(18 章 2 節)、アシッドトラップ(20 章 2 節)、スリバー(20 章 2 節)、孤立した銅(20 章 2 節)、テストポイント(21 章 5 節)、面積比(21 章 2 節)、インピーダンス制御(22 章 4 節)、ゼロサプレス(22 章 3 節)、単位(22 章 3 節)、層構成(22 章 4 節)、基準マーク(23 章 2 節)、材料(23 章 6 節)、納期(23 章 6 節)
1. レビューは 3 回に分ける
出図直前に 1 回だけ行うレビューは、手遅れのレビューである。 指摘が出ても直す時間がない。
| 回 | 時期 | 見るもの | 直せるもの |
|---|---|---|---|
| ① 制約レビュー | 配置の前 | 層構成、外形、機構制約、ネットの分類、コスト目標 | 全部 |
| ② 配置レビュー | 配線の前 | 部品配置、領域分け、電流の環、熱、実装性 | 配置と配線 |
| ③ 出図レビュー | 出図の前 | 配線、ベタ、DRC/DFM、出図データ | 配線の一部と出図 |
① と ② が本体である。 ③ は確認であって、そこで大きな指摘が出るのは失敗である。
配置レビューが最も費用対効果が高い.
07 章のとおり、配置は後戻りが最も高い工程である。 配線を始める前に 30 分のレビューをするだけで、 数日ぶんの手戻りが防げる。
このとき、まだ配線が引かれていないことが重要である。 配線済みの基板を見せられると、人は「もう完成している」と感じて、 配置への指摘を遠慮してしまう。
2. レビューの進め方
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 紙のチェックリストを使う | 記憶に頼らない。抜けは必ず起きる |
| 設計者以外が見る | 自分の設計の穴は自分では見えない |
| 信号を追う | 「重要ネットを 1 本ずつ、送信から受信まで指でたどる」 |
| 電流を追う | 「この電流はどこから来て、どこへ帰るか」を口に出す |
| 指摘は記録して、対応を残す | 「直した / 直さない(理由)」まで書く |
| 時間を区切る | 1 回 1 時間。長いレビューは集中力が切れて見落とす |
最も効く質問は「この電流はどこを帰りますか」である.
08 章の内容を、レビューでは質問の形にする。
- このクロックのリターンはどこを通りますか
- このビアの近くにリターンビアはありますか
- このコンデンサの GND は、IC の GND ピンまで何 mm ですか
- スイッチング電源の入力ループを指でなぞってください
答えられなければ、そこが穴である。
3. 総合チェックリスト
以下は本シリーズ全体のチェック項目である。 自分のプロジェクトに合わせて削り、追加して使うこと。
制約(① 制約レビュー)
- ☐ 外形・取付穴・部品高さ制限が、確定した機構図面に基づいているか(01 章・07 章)
- ☐ コネクタの位置と向きが筐体と合っているか
- ☐ 層構成が決まり、メーカの標準構成から選ばれているか(05 章)
- ☐ 高速・敏感・大電流のネットが分類され、要求が明文化されているか
- ☐ 基板メーカの製造仕様書を確認し、設計ルールに反映したか(04 章)
- ☐ コストと納期の目標が共有されているか(23 章)
フットプリント(06 章)
- ☐ すべてのフットプリントをデータシートと 1 対 1 で照合したか
- ☐ コネクタのピン番号、1 番ピンの向きを確認したか
- ☐ レジスト開口・ペースト開口・禁止領域・3D 外形が入っているか
- ☐ QFN のサーマルパッドのペースト開口率は 50〜70 % か
配置(② 配置レビュー)
- ☐ デカップリングは電源ピンの直近にあるか(14 章)
- ☐ スイッチング電源の入力ループが最小か(19 章)
- ☐ ノイズ源と敏感回路が離れているか(07 章・17 章)
- ☐ 発熱部品が分散し、熱に弱い部品から離れているか(18 章)
- ☐ 部品間隔・基板端の禁止領域・部品高さを満たしているか(21 章)
- ☐ チップ部品の向きが揃っているか(21 章)
- ☐ 基準マーク(フィデューシャル)があるか(21 章)
- ☐ テストポイントの場所が確保されているか(21 章)
- ☐ 配線密度が破綻する箇所がないか(07 章)
グラウンドと電源(08・13・14 章)
- ☐ グラウンド面が連続しているか。分割していないか
- ☐ スリットがある場合、それを横切る信号がないか
- ☐ ビアの列や部品の穴で面が分断されていないか
- ☐ 層を移る高速信号にリターンビアがあるか(12 章)
- ☐ 電源面の分割線を、その面を基準にする信号が横切っていないか
- ☐ スティッチングビアが λ/20 間隔で入っているか
- ☐ 基板端にビアフェンスがあるか
- ☐ 表層ベタがビアで縫われているか。孤立した銅がないか
- ☐ 電圧降下を計算したか(09 章)
配線(09〜12・15・16 章)
- ☐ 電流を流す配線の幅を温度上昇と電圧降下の両方で確認したか
- ☐ インピーダンス制御が必要なネットを特定し、線幅を設定したか
- ☐ 差動ペアの間隔が一定で、途中で変わっていないか
- ☐ スキューが規格または \(t_r/10\) 以内か。補正はずれた場所の近くか
- ☐ クロストーク(3W 以上、クリティカルは 5W)を確認したか
- ☐ クロックが最短・基準面の上・他信号から離れているか
- ☐ 水晶の周りが規定どおりか
- ☐ スタブを作っていないか。ビアスタブが問題になる速度か(12 章)
- ☐ 直列終端抵抗が送信ピンの 5 mm 以内にあるか(10 章)
熱(18 章)
- ☐ 発熱の大きい部品のジャンクション温度を見積もったか
- ☐ サーマルビアが9 本以上あり、埋めるか塞ぐ指定をしたか
- ☐ 放熱用の銅面が確保されているか
製造・実装(20・21 章)
- ☐ DRC がエラーゼロで通っているか(警告も確認したか)
- ☐ アシッドトラップ・細い首・孤立銅・スリバーがないか
- ☐ 銅残り率が層間で大きく偏っていないか(反り)
- ☐ ドリル径の種類を減らしたか
- ☐ シルクがパッドに乗っていないか。線幅・文字高は足りるか
- ☐ 銅から基板端まで 0.3 mm 以上あるか
- ☐ ステンシルの面積比を確認したか(21 章)
出図(22 章)
- ☐ 別のガーバービューアで全層を確認したか
- ☐ 層の対応表を付けたか
- ☐ 裏面が鏡像になっていないか
- ☐ ドリルの単位・桁数・ゼロサプレスが正しいか
- ☐ PTH と NPTH を分けたか
- ☐ 仕様書に材料・銅厚・表面処理・インピーダンス要求を書いたか
- ☐ BOM に完全な型番と DNP が明記されているか
- ☐ 極性を示す実装図(PDF)を添えたか
- ☐ 基板にリビジョンのシルクが入っているか
4. よくある失敗の上位
現場で繰り返し起きる失敗を、頻度順に並べる。
| 順 | 失敗 | 章 |
|---|---|---|
| 1 | フットプリントの間違い(ピン配置、寸法、1 番ピン) | 06 |
| 2 | グラウンドの分断(分割、ビア列、面の層に配線) | 08 |
| 3 | デカップリングが遠い | 14 |
| 4 | 機構との不整合(コネクタ位置、高さ、取付穴) | 01, 07 |
| 5 | 出図データの不備(層の取り違え、ドリル設定、DNP 未記載) | 22 |
| 6 | 熱の見積り漏れ | 18 |
| 7 | 基準マーク・テストポイントの欠落 | 21 |
| 8 | 電圧降下の見落とし | 09 |
上位 5 つは、すべて「確認すれば防げる」ものである.
難しい理論の話ではない。 データシートを開く、機構図面を確認する、ビューアで見る—— それぞれ 10 分で終わる作業の省略が、基板の作り直しになっている。
チェックリストは、賢さの代わりではなく、記憶の代わりである。
5. シリーズ全体の地図
| 層 | 中身 | 章 |
|---|---|---|
| 物理と製造 | 銅・樹脂・エッチング・めっき・公差。すべてのルールの根拠 | 01〜04 |
| 骨格 | 層構成・フットプリント・配置・グラウンド。性能の 8 割 | 05〜08 |
| 配線 | 線幅・インピーダンス・差動・ビア・ベタ・電源 | 09〜14 |
| 効かせる | クロストーク・高速 IF・アナログ・熱・EMC | 15〜19 |
| 作れる形に | DFM・実装性・出図・コスト・レビュー | 20〜24 |
このシリーズを 1 文にまとめるなら、こうなる。
基板アートワークとは、電流が通る道と帰る道を、 作れて・載せられて・冷える形で描く仕事である。
「つなぐ」ことは回路図がすでに終えている。 アートワークが決めるのは、その電流がどこを通り、どうやって帰るかであり、 それが寄生成分・波形・放射・温度のすべてを決める。
そして、どれだけ良い設計でも作れなければゼロなので、 製造と実装の制約が、常に同じ重みで隣にある。
アートワークレビュー用チェックリスト
上のチェック項目を分野ごとに表示する。 チェックを付けながら、自分の設計に抜けがないかを点検できる。
6. 姉妹シリーズへの接続
| テーマ | 行き先 |
|---|---|
| 伝送線路・反射・SI の理論 | 組み込み回路シリーズ 23 章 |
| EMC の原理と対策 | 組み込み回路シリーズ 24 章 |
| 電磁界解析で基板を評価する | 電磁界シミュレーションシリーズ 18・19 章 |
| 信号の帯域・FFT・窓関数 | DSP シリーズ |
| 部品そのものの内部 | 組み込み回路シリーズ 01 章〜22 章 |
7. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| レビューは 3 回 | 制約(配置前)/配置(配線前)/出図前。②が最も効く |
| 進め方 | 紙のリスト、他人の目、信号と電流を指でたどる |
| 最強の質問 | 「この電流はどこを帰りますか」 |
| 失敗の上位 | フットプリント、GND の分断、デカップリングの距離、機構、出図 |
| その性質 | 上位はすべて 10 分の確認で防げるもの |
| シリーズの結論 | アートワークとは、電流の行き道と帰り道を、作れる形で描く仕事である |
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