Chapter 06
フットプリントとランドパターン — はんだの物理から寸法を決める
この章のゴール.
フットプリントを「データシートの図の丸写し」ではなく、 なぜその寸法なのかを説明できるようになること。 ランドの大小がはんだ接合と実装歩留まりにどう効くかを、物理から理解すること。
アートワークの不良の相当数は、配線ではなくフットプリントで生まれる。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 実装業者(01 章 4 節)、部品配置(01 章 3 節)、SMD(02 章 4 節)、シルク(02 章 1 節)、アニュラリング(03 章 3 節)、スルーホール(03 章 3 節)、IPC(04 章 3 節)、高密度(04 章 2 節)、電源(05 章 3 節)
1. 用語の整理
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ランド(パッド) | 部品の端子をはんだ付けする、露出した銅の島 |
| ランドパターン | 1 つの部品に必要なランドの配置全体 |
| フットプリント | ランドパターンに、レジスト開口・シルク・禁止領域・原点などを加えた CAD の部品 |
| メタルマスク開口(ステンシル開口) | はんだペーストを塗る穴の形(21 章) |
| 禁止領域(keep-out) | 他の部品や配線を置いてはいけない範囲 |
フットプリントは「銅の形」だけではない。 レジスト・ペースト・シルク・禁止領域・部品の外形(3D 干渉用)まで含んだ 1 セットである。 どれか 1 つでも間違うと実装で問題が出る。
2. なぜランドの寸法が効くのか — はんだフィレットの物理
表面実装部品(SMD: Surface Mount Device、基板の表面に載せる部品)のはんだ付けでは、 溶けたはんだが表面張力で部品の端子とランドの間に「土手」を作る。 これをフィレット(fillet)と呼ぶ。
接合の強度と信頼性は、このフィレットの形で決まる。
| ランドが小さすぎると | ランドが大きすぎると |
|---|---|
| フィレットが形成されず、接合が弱い | はんだが部品を引っ張り、片側だけ先に溶けると部品が立つ(トゥームストーン) |
| 検査(外観・X 線)で判定しにくい | 部品が位置ずれする |
| 熱ストレスでクラックが入りやすい | 隣とブリッジ(短絡)しやすい |
トゥームストーン(tombstoning、墓石現象)とは、 チップ部品の片側だけが先に溶けて表面張力で引かれ、部品が立ち上がってしまう不良である。 小さいチップ部品(1005 以下。1005 はミリ表記で 1.0 × 0.5 mm、インチ表記では 0402 と呼ぶ——同じ部品が 2 通りに呼ばれるので注意)で起きやすく、 左右のランドの熱容量の差が主因になる(07 章・21 章で対策を扱う)。
フィレットには「つま先」「かかと」「側面」の 3 か所がある.
IPC の言葉で、
- toe(つま先) = 部品の外側に伸びるフィレット
- heel(かかと) = 部品の内側、端子の付け根のフィレット
- side(側面) = 端子の横に回るフィレット
強度と信頼性に最も効くのは heel である。 ランドを内側に伸ばすのをケチると、ここが痩せる。
3. IPC-7351 の 3 つの密度レベル
IPC-7351 は、部品の寸法と公差からランド寸法を計算する手順を定めた規格である。 そして 3 つの「密度レベル」を用意している。
| レベル | 名前 | フィレットの取り方 | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| A | Most(最大) | 大きい | 高信頼(医療・車載)、手はんだ、修理性重視 |
| B | Nominal(標準) | 中 | 既定値。迷ったらこれ |
| C | Least(最小) | 小さい | 高密度実装。実装ラインの能力が高い前提 |
計算の骨格だけ示す(記号は IPC の定義に沿う)。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| \(Z_{\max}\) | ランドパターンの外寸(つま先からつま先) |
| \(G_{\min}\) | ランドの内側どうしの隙間(かかとからかかと) |
| \(L_{\min}, S_{\max}\) | 部品の外寸の最小値、内側寸法の最大値 |
| \(J_T, J_H, J_S\) | つま先・かかと・側面のフィレット量(密度レベルで決まる) |
| \(C_L, C_S\) | 部品寸法の公差 |
| \(F\) | 基板の製造公差 |
| \(P\) | 実装機の配置精度 |
式の読み方はこうである。 「部品が最も大きいときでも、フィレットぶんの銅がはみ出すようにする」(\(Z_{\max}\))。 「部品が最も内側に寄っても、かかとのフィレットが取れる隙間を残す」(\(G_{\min}\))。 そこに部品公差・基板公差・実装機精度を二乗和で積む(04 章の RSS)。
式を暗記する必要はない。理解すべきは「何が積まれているか」である.
積まれているのは、部品のばらつき・基板のばらつき・実装機のばらつきの 3 つ。 だから、
- 部品の公差が大きい(安いコネクタなど)→ ランドは大きめに
- 実装機の精度が低い(試作、手載せ)→ 密度レベル A 寄りに
- 高密度でどうしても入らない → レベル C にするが、実装業者に確認する
という判断ができるようになる。これが分かっていれば十分である。
4. 実務での決め方 — 優先順位
| 優先 | 情報源 | 備考 |
|---|---|---|
| 1 | 部品メーカの推奨ランドパターン(データシート) | メーカが実際に評価している。最優先 |
| 2 | IPC-7351 の計算(CAD の自動生成機能) | 標準部品(チップ部品、SOP・QFP=側面からリードが出る一般的なパッケージ)はこれで十分 |
| 3 | CAD 付属のライブラリ | 必ず寸法を検証すること。間違いは珍しくない |
| 4 | 自作 | 上記がないとき。図面から自分で計算する |
ライブラリを信用してはいけない.
CAD やネット上のライブラリのフットプリントには、 ピン番号の入れ違い・寸法違い・1 番ピンマークの位置違いが実際に存在する。 特に、
- コネクタ(メーカごとにピン配置の数え方が違う)
- 電源 IC(放熱パッドの寸法)
- 水晶振動子・センサ(同じ外形で複数のピン配置)
必ずデータシートの図と 1 対 1 で照合する。 ここを 10 分省いて、基板を作り直した設計者は数えきれない。
5. 特に間違えやすい部品
スルーホール部品
穴径は 03 章のとおり リード径 + 0.2〜0.3 mm。 ランド径は 穴径 + 0.6 mm 以上(片側アニュラリング 0.3 mm)が目安である。 スルーホールは機械的にも力がかかるので、SMD より余裕を取る。
放熱パッド付き IC(QFN・DFN——底面に端子と放熱面だけがある、リードのないパッケージ。パワーパッケージも同様)
裏面に大きな金属面(サーマルパッド、露出パッド)を持つパッケージが増えている。 これはグラウンド接続と放熱を兼ねる(18 章)。
注意点は 2 つ。
- ペースト開口をパッド全面にしない。 全面に塗るとはんだが多すぎて部品が浮き(フローティング)、周囲の端子が接触しなくなる。 開口率 50〜70 % になるよう、格子状に分割した開口にするのが標準である
- サーマルビアはパッド内に置くが、はんだが吸われる。 ビアの穴にはんだが流れ落ちると、接合部のはんだが不足する。 対策は「ビアを裏側からレジストで塞ぐ(テンティング)」または「穴を樹脂で埋める(フィルドビア)」である(12 章)
BGA
コネクタ
- ピン番号の数え方がメーカ独自であることが多い
- 挿抜方向に力がかかるので、固定用の穴(ボス穴)と補強ランドを忘れない
- 筐体開口との位置関係を機構と確認する(03 章の外形公差を積む)
6. フットプリントに必ず入れるもの
| 要素 | 目的 | ありがちな失敗 |
|---|---|---|
| ランド(銅) | はんだ付け | 寸法・ピッチ違い |
| レジスト開口 | はんだの流れを止める | パッドと同寸法にしてしまう(片側 0.05 mm 大きく) |
| ペースト開口 | はんだ量の制御 | サーマルパッドを全面開口にする |
| シルクの外形と 1 番ピンマーク | 実装・検査・修理 | パッドの上に印刷してしまう |
| 禁止領域 | 隣接部品との干渉防止 | 未設定で背の高い部品と衝突 |
| 部品の 3D 外形 | 筐体との干渉確認 | 高さ情報がなく、ケースに当たる |
| 原点(実装基準) | 実装機のデータ | 部品中心でなく端に置いてしまう |
ランドパターンを計算する
部品の外寸・公差と密度レベルを入れると、IPC-7351 の考え方でランド寸法が出る。 公差を大きくしたときにランドがどう膨らむか、密度レベルで何が変わるかを見てほしい。
7. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| フットプリントの範囲 | 銅だけでなくレジスト・ペースト・シルク・禁止領域・3D 外形まで |
| ランド寸法の根拠 | はんだフィレット(つま先・かかと・側面)。かかとが強度を決める |
| IPC-7351 | 部品公差+基板公差+実装機精度を積む。密度レベル B が既定 |
| 優先順位 | メーカ推奨 > IPC 計算 > ライブラリ。ライブラリは必ず検証 |
| QFN/DFN | ペースト開口は 50〜70 %。サーマルビアははんだを吸う |
| 事故の温床 | コネクタのピン番号、1 番ピンの向き、禁止領域と高さ |