Chapter 18
熱設計 — 基板は放熱器である
この章のゴール.
「この部品は何 ℃ になるか」を、銅の面積とビアの本数から見積もれるようになること。 熱抵抗という 1 つの概念で、部品からパッケージ、基板、空気までを直列につないで考えること。
1. 熱抵抗 — オームの法則と同じ形
熱の流れは、電流の流れと同じ形の式で書ける。
| 電気 | 熱 |
|---|---|
| 電流 \(I\) [A] | 熱流 \(P\) [W] |
| 電圧 \(V\) [V] | 温度差 \(\Delta T\) [℃] |
| 抵抗 \(R\) [Ω] | 熱抵抗 \(\theta\) [℃/W] |
| \(V = IR\) | \(\Delta T = P\,\theta\) |
そして直列・並列の合成も同じである。 経路が直列なら足し算、並列なら逆数の和。
この 1 つの道具で、熱設計の見積りはほぼ全部できる。
2. 経路をたどる — ジャンクションから空気まで
半導体の発熱は、チップの表面(ジャンクション)で起きる。 そこから空気に届くまでの経路を、熱抵抗の直列回路として書く。
| 記号 | 名前 | 意味 |
|---|---|---|
| \(\theta_{JC}\) | ジャンクション–ケース | チップから、パッケージの放熱面(サーマルパッド)まで |
| \(\theta_{JA}\) | ジャンクション–周囲空気 | 全経路の合計。基板の条件込みの値 |
| \(\theta_{CB}\) | ケース–基板 | はんだ接合部 |
| \(\theta_{BA}\) | 基板–空気 | 基板から空気へ |
部品のデータシートに載っているのは \(\theta_{JC}\) と \(\theta_{JA}\) である。
\(\theta_{JA}\) をそのまま信じてはいけない.
データシートの \(\theta_{JA}\) は、JEDEC が定めた標準の試験基板 (たとえば「4 層、2S2P、面積 76.2 × 114.3 mm、自然対流」)で測った値である。
あなたの基板が、
- 2 層である
- サーマルビアがない
- 銅の面積が小さい
- 他の部品が近くで発熱している
なら、実際の \(\theta_{JA}\) は 2〜3 倍悪い。
逆に、大きな銅面とサーマルビアを与えれば、標準基板より良くなることもある。 \(\theta_{JA}\) は部品の性質ではなく、部品と基板の組み合わせの性質である。
見積りに使うなら、\(\theta_{JC}\)(これは部品固有)から出発して、 基板側の熱抵抗を自分で見積もるほうが確実である。
3. 基板の銅で放熱する
銅の面積と熱抵抗
表層の銅面から空気への熱抵抗は、面積が大きいほど小さくなる。 おおまかな目安(1 oz、自然対流、片面):
| 銅の面積 | \(\theta\)(片面、自然対流) |
|---|---|
| 100 mm²(10×10 mm) | 約 110 ℃/W |
| 400 mm²(20×20 mm) | 約 60 ℃/W |
| 1000 mm²(32×32 mm) | 約 40 ℃/W |
| 2500 mm²(50×50 mm) | 約 30 ℃/W |
(代表値である。空気の流れ、基板の向き、周囲の部品で大きく変わる。)
重要な性質が 2 つある。
① 面積を増やしても、効果は飽和する.
表を見ると、面積を 10 倍(100→1000 mm²)にしても、 熱抵抗は 1/3 弱にしかならない。
理由は、銅の中の横方向の熱伝導にも抵抗があるからである。 熱源から遠い銅は、そもそも温度が上がらないので放熱に寄与しない。 1 oz の銅で有効なのは、熱源から半径 15〜25 mm 程度まで。
だから「基板全部をベタにすれば冷える」は成り立たない。 熱源の近くに集中させ、必要なら銅を厚くするほうが効く。
② 両面使うと、ほぼ 2 倍効く.
裏面にも同じ銅面を作り、サーマルビアでつなげば、放熱面が 2 倍になる。 これは並列の熱抵抗なので、合成はおよそ半分。 サーマルビアが十分にあることが条件である(次節)。
サーマルビア
裏面や内層へ熱を運ぶのがサーマルビアである。
ビア 1 本の熱抵抗を見積もる。ビアは銅の筒なので、
| 記号 | 値 |
|---|---|
| \(L\)(板厚) | 1.6 mm |
| \(\lambda_{Cu}\)(銅の熱伝導率) | 400 W/(m·K) |
| \(D\)(ビア径) | 0.3 mm |
| \(t_{\text{めっき}}\) | 25 µm |
1 本で 170 ℃/W ——単独ではほとんど役に立たない。
しかし並列なので、
| 本数 | 合成熱抵抗 |
|---|---|
| 1 | 170 ℃/W |
| 4 | 42 ℃/W |
| 9 | 19 ℃/W |
| 16 | 11 ℃/W |
| 25 | 6.8 ℃/W |
9 本以上並べて、ようやく意味のある値になる。
サーマルビアの実務.
項目 目安 ビア径 0.3 mm(大きくしすぎるとはんだが吸われる) ピッチ 1.0〜1.2 mm 本数 サーマルパッドに収まるだけ。9 本以上 処理 樹脂で埋める(プラグ)か、裏からレジストで塞ぐ(12 章) 埋めないと、リフローではんだがビアを通って裏に流れ落ち、 サーマルパッドの接合部に空隙(ボイド)ができる。 空隙は熱を通さないので、放熱のために開けたビアが放熱を悪化させる、という皮肉が起きる。
4. 見積りの実例
条件: 3 W を消費する QFN パッケージのレギュレータ。 \(\theta_{JC}\) = 2 ℃/W(データシート)、周囲温度 60 ℃、ジャンクション上限 125 ℃。
経路:
| 区間 | 値 | 根拠 |
|---|---|---|
| \(\theta_{JC}\) | 2 ℃/W | データシート |
| はんだ接合 | 1 ℃/W | 小さい |
| サーマルビア 16 本 | 11 ℃/W | 上の表 |
| 裏面銅 400 mm² 両面 | 30 ℃/W | 60 ℃/W の並列 |
| 合計 | 44 ℃/W |
この設計は成立しない。対策の候補と効果:
| 対策 | 効果 |
|---|---|
| 銅面を 1000 mm² 両面に | 30 → 20 ℃/W(合計 34 ℃/W → \(T_J\) = 162 ℃)まだ足りない |
| 銅を 2 oz に | 横方向の広がりが改善。数 ℃/W |
| 風を当てる(0.5 m/s) | 銅面の熱抵抗が半分以下に。最も効く |
| ヒートシンクを付ける | 数 ℃/W まで下がる |
| 発熱そのものを減らす(効率の良い IC、スイッチング化) | 根本対策 |
熱の見積りは「間に合うかどうか」を早期に知るためにやる.
上の計算は 5 分で終わる。 これを配置の段階でやっておけば、 「ヒートシンクの取り付け穴が要る」「風の通り道を空ける」 といった機構との調整が間に合う。
基板ができてから熱が足りないと分かると、 筐体ごと作り直しになる。熱は最も高くつく後戻りの 1 つである。
5. その他の作法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発熱部品を分散する | 隣り合うと互いに温める。合計は同じでもピーク温度が上がる |
| 熱に弱い部品を離す | 電解コンデンサ(寿命が温度で半減)、水晶、基準電圧 IC、電池 |
| 温度センサの位置 | 最も熱い場所か、制御したい場所か。目的を決めて置く |
| 銅の橋を切らない | 熱は銅を通る。スリットは熱も遮る |
| 部品の向き | 縦置き(自然対流の向き)に配慮する場合がある |
| 大電流配線自体の発熱 | 09 章。配線も熱源である |
電解コンデンサの寿命は「10 ℃ 2 倍則」で効く.
周囲温度が 10 ℃ 下がるごとに、寿命がおよそ 2 倍になる。 105 ℃ 品を 85 ℃ で使うと寿命は約 4 倍。 レギュレータの隣に置くか、20 mm 離すかで、製品寿命が数倍変わる。 これは配置だけで得られる利益である。
銅箔で放熱する
発熱・銅面積・ビア本数・銅厚・風速を動かすと、 熱抵抗の内訳とジャンクション温度が出る。 「面積を増やす」と「ビアを増やす」と「風を当てる」のどれが効くかを比較してほしい。
6. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 熱抵抗 | \(\Delta T = P\theta\)。直列は足し算、並列は逆数の和。電気と同じ形 |
| \(\theta_{JA}\) | 標準試験基板の値。自分の基板では 2〜3 倍悪いこともある。\(\theta_{JC}\) から積む |
| 銅面積 | 効果は飽和する。有効なのは熱源から半径 15〜25 mm 程度 |
| サーマルビア | 1 本 170 ℃/W。9 本以上でようやく意味がある。必ず埋めるか塞ぐ |
| 最も効く対策 | 風。次にヒートシンク。次に銅面積。発熱を減らすのが根本 |
| 早期に見積もる | 5 分の計算で、筐体の作り直しを防げる |
| 熱に弱い部品 | 電解コンデンサは 10 ℃ で寿命 2 倍。配置だけで数倍変わる |