PCB Artwork 12 · ビア — 層をつなぐ小さな穴が、なぜこれほど問題を起こすのか

Chapter 12

ビア — 層をつなぐ小さな穴が、なぜこれほど問題を起こすのか

この章のゴール.

ビアを「層を変える手段」ではなく、 インダクタンス・容量・スタブを持った 3 次元の構造物として見られるようになること。 そして、種類・寸法・配置を、目的から選べるようになること。

この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 寄生成分(01 章 2 節)、ドリル(03 章 1 節)、高密度(04 章 2 節)、GND(05 章 3 節)、電源(05 章 3 節)、ランド(06 章 1 節)、最優先(06 章 4 節)、インダクタンス(08 章 2 節)、スタブ(09 章 5 節)

1. ビアの種類

ビア(via)とは、層と層を電気的につなぐめっきされた穴のことである。 どの層からどの層まで貫くかで、名前と製造方法が変わる。

ビアの種類 — どの層からどの層まで貫くかスルーホール(貫通)機械ドリル・1 回最も安い。既定ブラインドレーザ or 段階積層高いベリード積層前に加工して埋める高いマイクロビアレーザ・1 層ぶんだけHDI 専用(23 章)原則: 貫通ビアで済ませるブラインド/ベリードは価格 1.5〜3 倍・納期も伸びる。多くの場合、層を増やすか配置を見直すほうが安い
断面図の横線が銅箔層、縦の 2 本が内壁のめっき(ビアの筒)を表す
種類範囲加工コスト
スルーホールビア(貫通ビア)L1 から最終層まで貫通機械ドリル。全層まとめて 1 回最も安い。既定
ブラインドビア外層から内層まで(片側から見える)レーザ or 段階的な積層高い
ベリードビア内層から内層(表からは見えない)積層前に加工して埋め込む高い
マイクロビア隣接する 1 層間のみ、φ0.1 mm 級レーザHDI 専用(23 章)

原則: 貫通ビアで済ませる.

ブラインド/ベリードビアは、基板を「作ってから貼り合わせる」回数が増えるため、 価格が 1.5〜3 倍、納期も伸びる。 使う理由は「配線が物理的に入らない」場合に限られ、 それは多くの場合、層を増やすか配置を見直すほうが安い。

ビアの寸法の呼び方

用語意味
ドリル径(穴径)あける穴の直径
仕上がり径めっき後の穴径(ドリル径 − 0.05〜0.1 mm、03 章)
ランド径(パッド径)ビアの表面の銅の円の直径
アンチパッドビアが通る基準面側に開ける逃げ穴の直径
ビアの寸法の呼び方穴上から見た図アンチパッドドリル径あける穴の直径仕上がり径めっき後(ドリル径 − 0.05〜0.1 mm)ランド径(パッド径)表面の銅の円の直径アニュラリング(ランド径 − 穴径) / 2(03・04 章)アンチパッド基準面側に開ける逃げ穴アスペクト比 = 板厚 / ドリル径 ≤ 8:1標準は φ0.3 mm / ランド 0.6 mm。板厚 1.6 mm なら φ0.2 mm が下限(8:1)
電流を流すビアは φ0.4〜0.6 mm、サーマルビアは φ0.3 mm を格子状に(18 章)

一般的な組み合わせを挙げる。

用途ドリル径ランド径備考
標準の信号ビア0.3 mm0.6 mm最も安い
高密度の信号ビア0.2 mm0.45 mm04 章の高密度クラス
電流を流すビア0.4〜0.6 mm0.9 mm 以上複数本並べる
サーマルビア0.3 mm0.5 mm格子状に多数(18 章)

アスペクト比(板厚 ÷ ドリル径)にも上限がある。 穴が深くて細いと、めっき液が奥まで回らず、内壁の銅が薄くなる。

\[ \text{アスペクト比} = \frac{\text{板厚}}{\text{ドリル径}} \le 8{:}1 \ \ (\text{一般}), \quad 10{:}1 \ (\text{高技術}) \]

板厚 1.6 mm なら、ドリル径は 0.2 mm が下限(8:1)ということになる。

2. ビアの寄生成分

ビアは単なる「つなぎ」ではない。3 つの寄生成分を持つ。

ビアは 3 つの寄生成分を持つ① インダクタンスL ≈ 5.08h[ln(4h/d)+1] nH約 1 nH1.75 GHz で 14 Ω1 A/ns の変化で 1 V 発生② 容量C ≈ 1.41 εr T D₁/(D₂−D₁)0.3〜0.8 pFZ_via = √(L/C) が下がるアンチパッドを広げると改善③ スタブf = c / (4ℓ√εr)最も凶悪未使用部分が 1/4 波長共振その周波数の成分が消える覚えるべき数字は「ビア 1 個で約 1 nH」。これが 14 章のデカップリングで効いてくる板厚 1.6 mm・φ0.3 mm を代入: L ≈ 5.08 × 0.063 × [ln(21.4) + 1] ≈ 1.3 nH(式は inch 単位。h は板厚、d はドリル径)
L と C があるので、ビアは局所的にインピーダンスが下がる区間として見える

① インダクタンス

ビアは短い縦の導体なので、インダクタンスを持つ。近似式は

\[ L \approx 5.08\, h \left[ \ln\!\left(\frac{4h}{d}\right) + 1 \right] \quad [\text{nH}], \qquad h, d \ \text{は inch} \]

板厚 1.6 mm(0.063 inch)、ドリル径 0.3 mm(0.0118 inch)を入れると、

\[ L \approx 5.08 \times 0.063 \times \left[\ln(21.4) + 1\right] \approx 1.3\ \text{nH} \]

1 個あたり約 1 nH ——これが覚えておくべき数字である。

1 nH がどれくらい効くか.

後者が、デカップリングでビアを増やす理由である(14 章)。

② 容量

ビアのランドと基準面のアンチパッドの間には容量ができる。

\[ C \approx \frac{1.41\,\varepsilon_r\, T\, D_1}{D_2 - D_1} \quad [\text{pF}] \]

\(T\) = 板厚、\(D_1\) = ランド径、\(D_2\) = アンチパッド径(いずれも inch)。 典型的には 0.3〜0.8 pF。

インダクタンスと容量があるので、ビアは局所的にインピーダンスが下がる区間として見える。

\[ Z_{\text{via}} \approx \sqrt{\frac{L}{C}} \]

\(L\) = 1.3 nH、\(C\) = 0.5 pF なら \(Z \approx 51\ \Omega\)——たまたま近い。 だが \(C\) が大きいと \(Z\) が下がり、50 Ω の線路の途中に低インピーダンスの窪みができる。 アンチパッドを大きくすると \(C\) が減り、\(Z\) が上がって整合が改善する。

③ スタブ — 最も凶悪な問題

貫通ビアの、信号が使っていない部分が残る。これがビアスタブである。

ビアスタブ — 貫通ビアの未使用部分が共振するL1L4スタブL1→L4 に渡すと、L4 から最終層までが残るf = c / (4 ℓ √εr)スタブ長共振周波数(εr = 4.3)1.0 mm36 GHz1.5 mm24 GHz2.0 mm18 GHz3.0 mm12 GHz対策の優先順位: ① 層の割り当てで避ける(費用ゼロ) ② バックドリル ③ ブラインド/ベリード10 Gbps 未満では通常は問題にならない。一般的な基板でビアを恐れる必要はない
行き止まりの枝は 1/4 波長で短絡に見えるので、その周波数の成分がごっそり消える(ノッチ)

たとえば 12 層基板で、L1 から L4 へ信号を渡すためにビアを打つと、 L4 から L12 までの 8 層ぶんのビアが、行き止まりの枝として残る。

行き止まりの枝は、長さが 1/4 波長になる周波数で、 本線から見ると短絡に見える(開放端が 1/4 波長で短絡に変換される)。 その周波数の信号成分がごっそり消える——ノッチ(深い落ち込み)が生じる。

共振周波数は

\[ f_{\text{res}} = \frac{c}{4\,\ell_{\text{stub}}\sqrt{\varepsilon_r}} \]
スタブ長共振周波数(\(\varepsilon_r\)=4.3)
1.0 mm36 GHz
1.5 mm24 GHz
2.0 mm18 GHz
3.0 mm12 GHz

25 Gbps の信号は 12.5 GHz を中心に成分を持つ.

板厚 2 mm の基板で L1→L2 に信号を渡すと、スタブは約 1.9 mm、共振は約 19 GHz。 25 Gbps 級では帯域の中に共振が入る。

対策は 3 つ。

  1. バックドリル(スタブ除去): 裏から太いドリルで不要部分を削り取る。追加費用あり
  2. ブラインド/ベリードビア: そもそもスタブを作らない。高価
  3. 層の割り当てを工夫する: 高速信号を板の外側に近い層のペア(L1↔L2、L11↔L12)で完結させる。追加費用ゼロ

3 を先に検討するのが正しい順序である。

10 Gbps 未満では、スタブは通常問題にならない。 一般的な基板でビアを恐れる必要はない。ここは高速シリアルの世界の話である。

3. ビアの置き方

リターンビアを必ず添える

08 章で述べたとおり、信号が層を移ればリターン電流も層を移る。

信号が層を移れば、リターンも層を移るL1L2 GNDL3 GNDL4信号ビアGND ビア1〜2 mm 以内GND 面 → GND 面ならスティッチングビアで移れるGND 面 → 電源面の場合、つなげるのはコンデンサだけ(コンデンサ自身の L が乗る)
忘れると、リターン電流はビアの周りを探して広がり、そこが放射源になる(19 章)
状況必要なもの
GND 面 → 別の GND 面GND スティッチングビアを信号ビアの 1〜2 mm 以内に 1 本
GND 面 → 電源面その 2 面をつなぐコンデンサを近くに(コンデンサ自身の L が乗る)
差動ペアペアの外側に GND ビアを 2 本、対称に

これを忘れると、リターン電流はビアの周りを探して広がり、放射源になる(19 章)。 「高速信号のビアには GND ビアがセット」と覚えてしまうのがよい。

BGA からの脱出(エスケープ)

BGA の下は最も配線が混む場所である。ドッグボーンとビアインパッドの 2 方式がある。

BGA からの脱出(エスケープ)ドッグボーンパッドから短い配線を出し、隣にビア。0.8 mm ピッチ以上向き・追加費用なしビアインパッドパッドの中に直接ビア。0.5 mm ピッチ以下で必要・穴埋め+めっき蓋が必須ビアインパッドを穴埋めなしでやってはいけないリフローではんだが穴に吸い込まれ、接合部のはんだが不足する(06 章の QFN と同じ問題)
表層で脱出できる列数は、パッド間に通せる配線本数で決まる。それが必要な配線層数を決める(05 章)
方式中身特徴
ドッグボーン(ビアイン・ネイバー)パッドから短い配線を出し、隣にビアを置く標準。追加費用なし。ボールピッチ(BGA のはんだボールの間隔)0.8 mm 以上向き
ビアインパッドパッドの中に直接ビアを開ける0.5 mm ピッチ以下で必要。穴埋め+めっき蓋(フィルド&キャップ)が必須で高価

ビアインパッドを穴埋めなしでやってはいけない。 リフロー時に、はんだが穴に吸い込まれて接合部のはんだが不足する(06 章の QFN と同じ問題)。

ボールピッチごとの、表層で脱出できる列数の目安:

\[ N_{\text{列}} \approx \text{(ピッチ内に通せる配線本数)} \]

0.8 mm ピッチ・線幅 0.1 mm・間隔 0.1 mm なら、パッド間に 2 本通せるので外周 2 列ぶん。 それより内側は層を変えて脱出する必要があり、そこで必要な配線層数が決まる(05 章)。

ビアを電流の経路に使う

1 個のビアで流せる電流は、内壁のめっき(銅 20〜25 µm の筒)の断面積で決まる。

\[ A_{\text{ビア}} = \pi \, D \, t_{\text{めっき}} \]

φ0.3 mm、めっき 25 µm なら \(A \approx 0.024\ \text{mm}^2\)。 これは幅 0.7 mm の 1 oz 配線と同程度で、1 A 前後が目安になる。

大電流は必ずビアを複数本並べる.

3 A 流すなら 4〜6 本。「1 本で足りるはず」は禁物である。 ビアが焼き切れると、基板の内部で断線するので発見も修理もできない。 並べるコストはほぼゼロなので、迷ったら増やす。

ビアの表面処理 — テンティングと埋め

処理中身使いどころ
テンティングレジストでビアの上に膜を張って塞ぐ標準。はんだ流出防止、意図しない短絡防止
プラグ(樹脂埋め)樹脂で穴を埋めるサーマルビア、ビアインパッドの下地
フィルド&キャップ樹脂埋め+銅めっきで蓋ビアインパッド。平坦な面になる
オープン(開けたまま)何もしないテストポイント兼用のとき

パッドの近くのビアは必ずテンティングする。 開いたままだと、はんだがビアを通って裏側へ流れる。

ビアの寸法とスタブ共振

板厚・層構成・信号の通る層を選ぶと、スタブ長・共振周波数・ ビアのインダクタンスと容量が出る。バックドリルの効果も比較できる。

4. この章のまとめ

ポイント内容
種類貫通ビアが既定。ブラインド/ベリードは高価。まず層構成と配置を見直す
寸法φ0.3/ランド 0.6 mm が標準。アスペクト比 8:1 が上限
インダクタンス1 個約 1 nH。\(V = L\,di/dt\) で効く
スタブ貫通ビアの未使用部分が 1/4 波長共振。\(f = c/(4\ell\sqrt{\varepsilon_r})\)
スタブ対策層の割り当てで避けるのが最優先。次にバックドリル
リターンビア高速信号のビアには GND ビアをセットで 1〜2 mm 以内に
BGA 脱出0.8 mm ピッチ以上はドッグボーン、0.5 mm 以下はビアインパッド(穴埋め必須)
電流1 本あたり約 1 A。大電流は必ず複数本