PCB Artwork 23 · 特殊な基板とコスト — 何にいくら払っているのか

Chapter 23

特殊な基板とコスト — 何にいくら払っているのか

この章のゴール.

基板の見積りを見て、どの項目がいくらを押し上げているかを推測できるようになること。 そして HDI・フレキ・厚銅といった特殊な基板を、 「必要なときにだけ」選べるようになること。

この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 基板メーカ(01 章 4 節)、ENIG(02 章 5 節)、HASL(02 章 5 節)、OSP(02 章 5 節)、ルータ(03 章 5 節)、最小線幅(04 章 3 節)、高密度(04 章 2 節)、電源(05 章 3 節)、バックドリル(12 章 2 節)、ベリードビア(12 章 1 節)、ソリッド(13 章 2 節)、検査(21 章 1 節)、インピーダンス制御(22 章 4 節)、単位(22 章 3 節)、穴径(22 章 3 節)

1. 基板の価格は何で決まるか

基板の価格は何で決まるか単価 = 初期費用/枚数 + 面積単価 + 加工の追加費納期(短納期)×1.5〜3 ← 最大の変動要因材料(低損失材)×2〜5ブラインド/ベリードビア×1.5〜3層数(2→4)×1.8最小線幅・間隔のクラス+20〜40 %面積ほぼ比例銅厚(2 oz)+10〜20 %表面処理(ENIG)+10〜20 %「安くしたい」と言われたときに見る順番① 納期を延ばせないか ② 面付けの取り数を増やせないか ③ 層数を減らせないか(SI を犠牲にせずに)④ 面積 ⑤ クラス ⑥ 表面処理・材料 —— ①と②で解決することが多い。設計を削るのは最後である
見積りは「1 枚あたり」ではなく「ロットあたり」で見る。10 枚と 1000 枚では単価が桁で違う

価格は、大きく 面積 × 単価 と 固定費(初期費用) に分かれる。

\[ \text{単価} = \frac{\text{初期費用}}{\text{枚数}} + (\text{面積単価}) + (\text{加工の追加費}) \]
要因効き方
面積ほぼ比例。最も素直に効く
層数2→4 で約 1.8 倍、4→6 で約 1.4 倍(面積単価)
枚数初期費用が割られる。少量ほど 1 枚が高い
最小線幅・間隔04 章のクラス。高密度で +20〜40 %
最小穴径小さいほどドリル時間が増える
銅厚2 oz で +10〜20 %、3 oz 以上でさらに
材料低損失材で 2〜5 倍(02 章)
表面処理HASL < OSP < ENIG(+10〜20 %)
ブラインド/ベリードビア1.5〜3 倍(12 章)
インピーダンス制御+数千円/ロット(05 章)
特殊加工バックドリル、ビア埋め、キャップめっき、面取り
納期短納期は 1.5〜3 倍。最大の変動要因

「安くしたい」と言われたときに見る順番.

  1. 納期を延ばせないか — 最も大きく、最も簡単に効く
  2. 面付けの取り数を増やせないか(本章 3 節)
  3. 層数を減らせないか — ただし SI と EMC を犠牲にしないこと
  4. 面積を減らせないか
  5. クラスを緩められないか(BGA の下だけ細かく、他は標準)
  6. 表面処理・材料を標準に戻せないか

1 と 2 で解決することが多い。 設計を削るのは最後である。

2. 面付け(パネライズ)

小さな基板を 1 枚ずつ作るのは非効率なので、 大きな板に複数枚並べて作り、あとで分割する。これが面付けである。

面付け(パネライズ)— 取り数が単価を決める捨て板(レール)5〜10 mmパネルに基準マーク 3 個(対角+1)取り数の例100 × 80 mm の基板 / 250 × 330 mm のパネルそのまま2 × 4 = 8 枚90° 回して3 × 3 = 9 枚(+12 %)基板の寸法を数 mm 詰めるだけで1 列増えることがある「あと 3 mm 縮められないか」は、コスト会議で本当に効く質問である
分割は V カット(直線のみ・隙間 0)かミシン目タブ(任意形状・隙間 2 mm 程度)
用語意味
ワークサイズ(製造パネル)基板メーカが扱う板の大きさ。1.0 × 1.2 m 級から切り出す
面付けパネル(アレイ)実装で扱う単位。実装機に入るサイズ
捨て板(イヤー、レール)パネルの端に付ける、部品を載せない帯
取り数1 パネルに何枚並ぶか

面付けの設計

項目目安
パネル寸法実装機の対応範囲(多くは 250 × 330 mm 程度まで)
捨て板の幅5〜10 mm(実装機のレール、21 章)
基板間の隙間V カット: 0(直接隣接)/ルータ: 2 mm 程度
基準マークパネルに 3 個(対角+1)
分割方法V カット(直線)/ミシン目タブ(任意形状)

取り数が価格に直結する.

面積単価で作られるので、パネル面積あたり何枚取れるかが単価を決める。

例: 100 × 80 mm の基板を、250 × 330 mm のパネルに並べる

基板の縦横比を少し変えるだけで、取り数が変わることがある。 外形が固まる前に、面付けを一度シミュレーションする価値がある。

また、基板の寸法を数 mm 詰めるだけで 1 列増えることがある。 「あと 3 mm 縮められないか」は、コスト会議で本当に効く質問である。

3. HDI — 高密度化の道具

HDI(High Density Interconnect)は、 レーザで開けたマイクロビアを使って、配線密度を上げる技術である。

HDI — レーザで開けるマイクロビア1+N+1コアの上下にビルドアップ 1 層ずつ2+N+2(スタックド)マイクロビアを縦に積めるエニーレイヤ全層がビルドアップ。任意の層間をつなげるHDI は高い。まず回避を検討する① 層数を増やして貫通ビアで脱出できないか ② BGA のピン配置を変えられないか③ ピッチの大きいパッケージを選べないか —— 本当に必要なのは極限の小型化か 1000 ピン級である
マイクロビアは φ0.075〜0.15 mm、レーザで 1 層ぶんだけ開ける。スタガード(ずらす)ほうが信頼性は高い
構造の表記意味
1+N+1コア(N 層)の上下に、ビルドアップ層を 1 層ずつ
2+N+2上下に 2 層ずつ。マイクロビアを段積み(スタックド)できる
エニーレイヤ全層がビルドアップ。任意の層間をつなげる
用語意味
マイクロビアφ0.075〜0.15 mm。レーザで 1 層ぶんだけ開ける
スタックドビアマイクロビアを縦に積む。真上に重ねる
スタガードビアずらして配置。信頼性が高い

HDI が必要になる典型は、0.5 mm ピッチ以下の BGA である。 外周 2 列までは表層で脱出できるが、それより内側は ビアインパッドかマイクロビアが要る(12 章)。

HDI は高い。まず回避を検討する.

HDI が本当に必要なのは、 スマートフォンのような極限の小型化か、1000 ピン級の BGA である。 一般的な産業機器で HDI を選ぶ前に、上の 3 つを検討する。

4. フレキシブル基板とリジッドフレックス

フレキシブル基板の設計ルールR曲げ半径静的: 厚みの 10 倍以上動的: 100 倍以上曲げ部に部品・ビアを置かない配線は曲げ方向に対して垂直に横切らせる斜め・平行は割れるベタはハッチングにソリッドの銅は曲がらない配線の角を丸く応力集中を避けるカバーレイ(レジストの代わり)開口公差 ±0.2 mm補強板(スティフナ)コネクタ部の裏に貼るフレキの見積りは「面積」ではなく「材料の取り数」で決まる細長い形が多く、少しだけ長いために取り数が減ることがある。長さを詰められるか確認する価値がある
リジッドフレックスは硬い基板とフレキが一体。コネクタを減らせて信頼性が上がるが高価である
種類中身使いどころ
フレキ(FPC)ポリイミド(耐熱性の高い樹脂フィルム)を基材にした薄い基板。曲がるケーブルの代わり、可動部、狭い空間
リジッドフレックス硬い基板とフレキが一体コネクタを減らしたい、信頼性が要る

フレキ特有の設計ルール

項目内容
曲げ半径静的曲げで厚みの 10 倍以上、動的(繰り返し)で 100 倍以上
曲げ部に部品・ビアを置かない応力が集中して割れる
配線は曲げ方向に対して垂直に横切らせる斜めや平行は割れやすい
ベタはハッチングにソリッドの銅は曲がらない(13 章)
配線の角を丸く応力集中を避ける
カバーレイ(レジストの代わり)ポリイミドのフィルム。開口の公差が大きい(±0.2 mm)
補強板(スティフナ)コネクタ部やパッド部の裏に貼って補強

フレキの見積りは「面積」ではなく「材料の取り数」で決まる.

フレキは細長い形が多く、材料のシートから何本取れるかで価格が変わる。 少しだけ長いために取り数が減ることがあるので、 長さを詰められるかを確認する価値がある。

5. その他の特殊仕様

仕様中身使いどころ
厚銅(3 oz 以上)大電流電源基板。細い線が引けなくなる(02 章)
メタルコア(IMS)アルミ板の上に絶縁層と銅LED 照明、大電力。放熱が桁違い
キャビティ基板をザグって部品を沈める薄型化
端面スルーホール(キャッスレーション)基板端の半円の穴モジュール基板を親基板にはんだ付け
カーボン印刷銅の上にカーボンメンブレンスイッチ(薄いシート状の押しボタン)の接点
UL 認定材難燃・トラッキング(汚れと湿気で絶縁が徐々に壊れる現象)への耐性の認証認証が要る製品

6. 早期にコストを見積もる

早期に決めるだけで、価格の 8 割が決まる 5 項目外形寸法面積に比例直接効く層数2→4 で 1.8 倍面積単価クラス+0〜40 %線幅・穴径材料×1〜5低損失材は高い納期×1〜3最大の変動要因試作の見積りを見て「基板は高い」と判断するのは誤りである初期費用(版下・面付け・検査治具)が枚数で割られるので、10 枚と 1000 枚では単価が桁で違う量産の枚数で聞き直す。試作を安くするなら、共通パネルの相乗りサービスという手もある特殊仕様: 厚銅(3 oz〜)/ メタルコア(IMS)/ キャビティ/ 端面スルーホール/ UL 認定材
これらを配置や配線が固まる前に決めておくと、あとからの変更がほぼなくなる

設計の初期に、次の 5 つを決めるだけで、価格の 8 割が決まる。

決めること影響
外形寸法面積 → 直接効く
層数面積単価
最小線幅・穴径のクラス+0〜40 %
材料×1〜5
納期×1〜3

見積りは「1 枚あたり」ではなく「ロットあたり」で見る.

初期費用(版下、面付け、検査治具)が枚数で割られるので、 10 枚と 1000 枚では単価が桁で違う。

試作の見積りを見て「基板は高い」と判断するのは誤りで、 量産の枚数で聞き直す必要がある。 逆に、試作を安くするには、共通パネルの相乗りサービスを使う手がある。

面付けとコストを計算する

基板寸法・パネル寸法・層数・クラス・枚数を入れると、 取り数と概算単価、そして「あと何 mm 詰めれば 1 列増えるか」が出る。

7. この章のまとめ

ポイント内容
価格の構造初期費用/枚数 + 面積単価 + 加工費。納期が最大の変動要因
安くする順番納期 → 面付け → 層数 → 面積 → クラス → 材料
面付け取り数が単価を決める。数 mm 詰めると 1 列増えることがある
HDI0.5 mm ピッチ以下の BGA で必要。まず層数増と部品選定で回避を検討
フレキ曲げ半径は厚みの 10 倍(動的 100 倍)。曲げ部に部品とビアを置かない
早期見積り外形・層数・クラス・材料・納期の 5 つで価格の 8 割が決まる