Chapter 22
出図データ — 何を渡せば、意図どおりの基板が返ってくるか
この章のゴール.
出図データ一式の中身を、それぞれが何を決めているかまで理解すること。 そして「渡し忘れ」「取り違え」という、最も間抜けで最も多い事故を防ぐこと。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 出図(01 章 3 節)、ENIG(02 章 5 節)、FR-4(02 章 3 節)、SMD(02 章 4 節)、シルク(02 章 1 節)、ソルダーレジスト(02 章 1 節)、ルータ(03 章 5 節)、IPC(04 章 3 節)、サーマルパッド(06 章 5 節)、コンデンサ(12 章 3 節)、ドリル径(12 章 1 節)、バックドリル(12 章 2 節)、メタルマスク(21 章 2 節)、検査(21 章 1 節)
1. 出図データの全体像
出図は、大きく 3 つの相手に向けたデータに分かれる。
| 相手 | 渡すもの |
|---|---|
| 基板メーカ | ガーバー(または IPC-2581 / ODB++)、ドリルデータ、外形、仕様書 |
| 実装業者 | BOM(部品表)、マウントデータ(座標)、メタルマスクデータ、実装指示 |
| 自社・将来の自分 | 回路図、CAD データ、変更履歴、設計判断の記録 |
3 つ目を軽視しないこと。 半年後に修正するのは自分である。
2. ガーバーデータ — 層ごとの「絵」
ガーバー(Gerber)は、基板の各層のパターンを表す事実上の標準形式である。 1 つのファイルが 1 つの層に対応する。
| ファイル | 内容 | よくある拡張子 |
|---|---|---|
| 外層(表)の銅 | L1 のパターン | .gtl / .GTL |
| 外層(裏)の銅 | 最終層のパターン | .gbl |
| 内層の銅 | L2、L3、… | .g2l, .g3l / .gbr |
| レジスト(表・裏) | 開口部(銅を露出させる場所) | .gts / .gbs |
| シルク(表・裏) | 印刷する図柄 | .gto / .gbo |
| ペースト(表・裏) | メタルマスクの開口 | .gtp / .gbp |
| 外形 | 基板の輪郭 | .gko / .gml |
レジストのデータは「塗るところ」ではなく「開けるところ」である.
ガーバーのレジスト層に描かれた図形は、レジストを開ける(銅を露出させる)範囲を表す。 直感と逆なので、ビューアで見るときに混乱しやすい。
確認の仕方は簡単で、 「パッドの位置に図形があれば正しい」。 パッド以外の場所が塗りつぶされていたら、それは反転している。
拡張ガーバー(RS-274X)を使う
古い形式(RS-274D)は、線の太さなどの情報が別ファイル(アパーチャリスト)に分かれていた。 現在は RS-274X(拡張ガーバー)が標準で、1 ファイルに情報が完結している。
さらに新しい Gerber X2 は、 「この層は L1 の銅」「このパッドは SMD」といった属性情報を持てる。 対応しているメーカなら、取り違えが減る。
より新しい形式
| 形式 | 特徴 |
|---|---|
| IPC-2581 | 業界標準。1 ファイルに全情報(層構成、ネット、部品、公差まで) |
| ODB++ | 事実上の標準。同じく統合形式 |
利点は「1 ファイルで完結し、層の対応を間違えようがない」こと。 メーカが対応しているなら、こちらのほうが事故が少ない。 ただし対応状況はまちまちなので、ガーバーも併せて送るのが実務的である。
3. ドリルデータ
穴の位置と径のリストである。形式は Excellon(NC ドリル)が標準。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 単位 | mm か inch か。桁数の指定(例: 3.3 形式) |
| ゼロサプレス | 先頭ゼロ省略 / 後方ゼロ省略 / なし。間違えると 10 倍ずれる |
| めっきあり / なし | PTH(めっきあり)と NPTH(めっきなし)は別ファイルにする |
| 穴径 | 仕上がり径かドリル径か(03 章) |
| 座標原点 | ガーバーと同じ原点か |
「めっきなしの穴」を分けるのを忘れがち.
取り付け穴(ネジ穴)は、ふつうめっきなし(NPTH)である。 めっきありにすると、穴の内壁の銅がネジやスペーサ(基板を浮かせる筒状の部品)と接触して、 意図しない GND 接続が起きる。
逆に、わざとめっきありにしてシャーシ GND に落とす設計もある。 どちらなのかを明示するのが設計者の責任である。
4. 仕様書 — ガーバーに書けないことを伝える
ガーバーは「絵」なので、材料や処理は伝わらない。別途、仕様書を書く。
| 項目 | 指定内容の例 |
|---|---|
| 板厚 | 1.6 mm ±10 % |
| 層数 | 4 層 |
| 材料 | FR-4、Tg 150 以上 |
| 層構成 | 各層の銅厚と誘電体厚(メーカ標準名でもよい) |
| 銅厚 | 外層 1 oz(仕上がり)、内層 1 oz |
| ソルダーレジスト | 色(緑)、両面 |
| シルク | 色(白)、両面 |
| 表面処理 | ENIG(金厚 0.05 µm 以上) |
| インピーダンス制御 | 有無、対象ネット、目標値と公差(05 章・10 章) |
| 外形加工 | ルータ/V カット |
| 面付け | 有無、寸法、捨て板(23 章) |
| 検査 | 電気検査(全数)、外観 |
| 規格 | IPC-A-600(基板の外観と内部構造の合否基準)クラス 2 など |
| 特記 | ビア埋め、バックドリル、UL(安全規格の認証機関)認定材の要否 |
層の対応表は必ず付ける.
「.g2l が L2 です」という対応表がないと、 メーカは推測するしかない。 4 層ならまだしも、8 層で内層の順番を取り違えると、 完全に動かない基板が届く。
図付きの層構成図(層番号、ファイル名、銅厚、誘電体厚)を 1 枚作る。 これは 10 分でできて、事故を確実に防ぐ。
5. 実装データ
BOM(部品表)
| 列 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 参照記号(R1, C2, U3…) | 基板上の位置と対応 | 抜けがないか |
| 値 | 10 kΩ、100 nF、… | |
| フットプリント | 1608、SOP-8、… | CAD と一致しているか |
| メーカ名・型番 | 完全な型番 | 部分型番は誤発注のもと |
| 数量 | 1 枚あたり | |
| 実装するか | 実装 / 未実装(DNP) | DNP を明記しないと載る |
| 代替品 | 可否と型番 | 供給の問題への備え |
型番は「完全な型番」で書く.
「GRM188R71H104K」まで書いても、末尾のパッケージ・梱包コードがないと発注できない。 「10 kΩ 1 % 1608」だけでは、業者が選んだものが載る。
温度特性(X7R / C0G——コンデンサの温度特性を表す記号。C0G は温度で容量がほとんど変わらず、X7R は変わる)、耐圧、精度が効く部品では、 業者が選んだ品で特性が変わることが実際にある。 効くところは完全型番、効かないところは仕様指定、と使い分ける。
マウントデータ(座標データ)
各部品の 参照記号・X 座標・Y 座標・回転角・面(表/裏) のリストである。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 原点 | ガーバーと同じか、パネルの基準か。明示する |
| 回転角の基準 | CAD と実装機で 0° の定義が違うことがある |
| 面の表記 | Top/Bottom、T/B、1/2 など統一 |
| 極性部品の向き | データだけでは判断できないことがある → 実装図を添える |
極性の向きは、必ず図でも伝える.
ダイオード、電解コンデンサ、コネクタ、IC—— 座標と回転角だけでは、業者が向きを取り違えることがある。 特に部品メーカが 1 番ピンの定義を変えている場合は、データだけでは防げない。
1 番ピンや極性を明記した実装図(PDF)を添える。 これが実装不良を防ぐ最も確実な手段である。
メタルマスクデータ
ペースト層のガーバー(.gtp / .gbp)を渡す。 21 章で調整した開口(QFN のサーマルパッドなど)が反映されているか確認する。
6. 出図前のチェック — ビューアで見る
必ず、CAD とは別のガーバービューアで開いて確認する。 CAD の画面で正しく見えても、出力で壊れていることがある。
| 確認項目 |
|---|
| すべての層が出力されているか(層数 × 銅 + レジスト 2 + シルク 2 + ペースト 2 + 外形) |
| 層の対応が合っているか(L2 と L3 が入れ替わっていないか) |
| 裏面が鏡像になっていないか(正しくは、表から見た向きで出力される) |
| レジスト開口がパッドの位置にあるか |
| シルクがパッドに乗っていないか |
| ドリルとパッドの位置が一致しているか |
| 外形の中に全部が収まっているか |
| ドリルの単位・桁数が正しく読めているか |
| ペースト開口が意図どおりか |
| 面付け・基準マーク・捨て板が含まれているか |
「ドリルがずれて見える」は、単位設定の誤りである.
ビューアでドリル穴が基板の外や隅に固まって見えたら、 ゼロサプレスか桁数の設定が食い違っている。 ビューア側で設定を変えて合うなら、メーカにその設定を明記して伝える。 合わせずに送ると、メーカが推測して開けることになる。
7. リビジョンと変更管理
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基板にリビジョンをシルクで入れる | 「Rev 1.2」。実物を見て版が分かることが決定的に重要 |
| ファイル名に版と日付 | board_rev1.2_20260830.zip |
| 変更履歴 | 何を、なぜ変えたか。回路変更か、アートワークのみか |
| 回路図・CAD データの保存 | ビルド可能な状態で |
| 設計判断の記録 | なぜその層構成か、なぜその線幅か(20 章) |
リビジョンのシルクは、必ず入れる.
試作を数回まわすと、机の上に見分けのつかない基板が並ぶ。 どれが Rev 1.1 でどれが 1.2 か分からなくなった瞬間、 それまでの評価データがすべて信用できなくなる。
銅で作れば版ごとに版下が変わるので、 シルクの一部を手で塗りつぶせる形(□1.0 □1.1 □1.2)にしておく手もある。
出図ファイルを確認する
出図データの一覧から各ファイルを選ぶと、 何を決めているか、確認すべき点、渡し忘れたときに何が起きるかが表示される。
8. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 3 つの相手 | 基板メーカ/実装業者/将来の自分 |
| ガーバー | 層ごとの絵。レジストは「開ける場所」。RS-274X を使う |
| ドリル | 単位・桁数・ゼロサプレスの取り違えが定番の事故。PTH と NPTH は分ける |
| 仕様書 | 材料・層構成・銅厚・表面処理・インピーダンス。層の対応表を必ず付ける |
| BOM | 完全な型番、DNP の明記 |
| マウントデータ | 原点・回転角・面。極性は実装図(PDF)でも伝える |
| 出図前 | 別のビューアで開く。裏面の鏡像、シルクとパッドの重なりを確認 |
| リビジョン | 基板にシルクで版を入れる。入れないと評価データが信用できなくなる |