Chapter 04
設計ルールと公差 — DRC の数字はどこから来るのか
この章のゴール.
CAD の設計ルール(デザインルール)に入れる数字を、 メーカの表を写すのではなく、意味を理解して選べるようになること。 そして「公差を積み上げる」という、地味だが事故を防ぐ計算を身につけること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). mil(01 章 5 節)、製造・実装(01 章 3 節)、アニュラリング(03 章 3 節)、アンダーカット(03 章 2 節)、エッチング(03 章 1 節)、ドリル(03 章 1 節)、ルータ(03 章 5 節)、層ずれ(03 章 1 節)
1. 設計ルールとは何か
DRC(Design Rule Check、設計ルールチェック)は、 CAD が「この設計は決めたルールを守っているか」を自動で検査する機能である。 検査項目はおおむね次の 3 系統に分かれる。
| 系統 | 例 | 破ると |
|---|---|---|
| 製造できるか | 最小線幅、最小間隔、最小穴径、アニュラリング | 作れない/歩留まりが落ちる |
| 実装できるか | パッド間隔、レジスト土手、部品どうしの隙間 | 実装不良・修理不能 |
| 意図どおり動くか | 差動ペアの間隔、等長、高圧の沿面距離 | 動かない/認証で落ちる |
DRC を通ったことは「正しい」ことを意味しない。 ルールに入れ忘れた項目は検査されないし、間違ったルールを入れれば間違ったまま通る。 DRC は「決めたことを守れているか」の確認であって、「決めたことが妥当か」は人間の仕事である。
2. 製造クラス — どこまで細かくするといくら上がるか
線幅と間隔をどこまで詰めるかで、基板の価格と歩留まりが変わる。 おおまかな段階を示す(具体的な値と価格差は必ずメーカに確認すること。ここは相場感である)。
| クラス | 最小線幅 / 間隔 | 最小仕上がり穴径 | 価格の目安 | 使う場面 |
|---|---|---|---|---|
| 標準 | 0.15 mm / 0.15 mm(6 mil) | 0.3 mm | 基準 | 大半の基板はこれで足りる |
| 一般的な高密度 | 0.127 mm / 0.127 mm(5 mil) | 0.25 mm | +0〜10 % | 0.5 mm ピッチ BGA まで |
| 高密度 | 0.1 mm / 0.1 mm(4 mil) | 0.2 mm | +20〜40 % | 0.4 mm ピッチ BGA |
| 超高密度 | 0.075 mm / 0.075 mm(3 mil) | 0.15 mm(レーザ) | +80 %〜 | HDI(High Density Interconnect=高密度配線。レーザで開ける微細なビアを使う工法、23 章) |
「一番細かいクラスで設計しておけば安心」は逆である.
ルールを厳しくすると、価格が上がるだけでなく歩留まりが落ちる。 歩留まりが落ちるということは、出荷後の初期不良率も上がるということである。
正しい姿勢は「必要なところだけ細かくする」。 BGA の下だけ 0.1 mm、それ以外は 0.2 mm、というように領域でルールを分けられる CAD がほとんどである。 基板全体を最小ルールで引く必要はどこにもない。
3. 主要なルールと、その根拠
線幅と間隔
- 最小線幅: エッチングのアンダーカット(03 章)で決まる。銅厚に比例して太くなる
- 最小間隔: 同じくエッチングと、露光の解像度で決まる
- 電流を流す線の幅: 温度上昇から決める(09 章)。ルールではなく計算
アニュラリング
03 章で見たとおり、パッド半径 − 穴半径 の残りである。
| 要求水準 | 片側アニュラリング | 備考 |
|---|---|---|
| 最低限(IPC クラス 1 相当) | 0.05 mm | 民生・短寿命 |
| 一般(IPC クラス 2 相当) | 0.15 mm | 標準的な産業機器 |
| 高信頼(IPC クラス 3 相当) | 0.2 mm 以上 | 医療・車載・航空 |
なお IPC とは電子回路基板の業界団体で、 基板の設計・製造・実装に関する事実上の標準規格を出している組織である。 クラス 1 / 2 / 3 は要求される信頼性の等級で、数字が大きいほど厳しい。
銅と基板端の距離
外形加工(ルータ)は ±0.1〜0.2 mm ずれるうえ、 削るときに銅が引きちぎられてバリや層間剥離を起こす。
- 銅から基板端まで 0.3 mm 以上(V カットなら 0.5 mm 以上)
- これを守らないと、端で銅が露出して隣の基板やケースと短絡する事故になる
沿面距離と空間距離(高電圧を扱う場合)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 空間距離(クリアランス) | 空気中を最短で測った距離 |
| 沿面距離(クリーページ) | 絶縁物の表面に沿って測った距離 |
同じ 2 mm の隙間でも、間にスリット(溝)を入れると沿面距離は伸びる。 必要な距離は電圧・汚染度・材料グループで決まり、規格(IEC 60664-1 など)の表で引く。 ここは「経験で決める」領域ではない。認証が絡むなら必ず規格原本を確認する。
4. 公差の積み上げ — 事故を防ぐ 10 分
個々の公差は小さくても、足し合わせると設計値を食い潰す。 アニュラリングを例に、実際に積んでみる。
条件: 仕上がり穴 φ0.3 mm、パッド φ0.6 mm(=設計上のアニュラリング 0.15 mm)
| 要因 | 悪い側の量 |
|---|---|
| ドリル位置公差 | 0.075 mm |
| 層ずれ(内層パッドの場合) | 0.075 mm |
| 穴径公差(大きい側) | 0.05 mm → 半径で 0.025 mm |
| パッドのエッチング公差(細る側) | 0.03 mm |
最悪ケース(全部が最悪方向に重なる):
マイナス——つまり穴がパッドを突き破る。設計値では 0.15 mm あったのに、である。
最悪ケースと二乗和平方根(RSS).
上のように全部を単純に足すのが最悪ケース法で、最も安全だが厳しすぎることも多い。 各公差が独立でばらつくなら、二乗和の平方根で積むほうが現実的である:
$$\sigma_{\text{合成}} = \sqrt{0.075^2 + 0.075^2 + 0.025^2 + 0.03^2} = 0.113\ \text{mm}$$
これなら 0.15 − 0.113 = 0.037 mm が残り、成立する。
どちらを使うかは要求される信頼性で決める。 クラス 3(医療・車載)なら最悪ケース、民生ならば RSS+歩留まりで許容、というのが実務の感覚である。 大事なのは、どちらの方法で判断したかを記録に残すことである。
この計算から出る対策は素直で、パッドを大きくする(φ0.6 → φ0.7 mm)か、 穴を小さくするか、メーカの公差の良いクラスを選ぶか、である。 どれもコストか密度を払う。ただで安全にはならないというのが公差の教えである。
5. ルールをどこから持ってくるか
| 情報源 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 基板メーカの製造仕様書 | 最小線幅・穴径・公差・材料一覧 | これが一次情報。メーカを変えたら見直す |
| 部品メーカの推奨ランドパターン | フットプリント寸法(06 章) | データシートに必ず載っている |
| IPC 規格 | ランドパターン(IPC-7351)、線幅と電流(IPC-2152)ほか | 業界の共通言語 |
| 社内標準 | 上記を自社の量産条件で丸めたもの | あるなら最優先 |
「前の基板のルールをコピーする」は最も多い事故の原因である.
前回は 2 層 1 oz の基板、今回は 4 層 2 oz——それだけで最小線幅は変わる。 メーカが変われば公差も変わる。 プロジェクトの最初に、そのメーカのその仕様の製造仕様書を開く。 10 分で終わる作業である。
設計ルールと製造クラスを選ぶ
線幅・間隔・穴径・アニュラリングを動かすと、必要な製造クラスと相対コスト、 そして公差の積み上げ結果(成立するかどうか)が同時に出る。 「どこを緩めれば安くなるか」を探ってほしい。
6. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| DRC の役割 | 決めたルールを守れているかの検査。ルールの妥当性は人間が決める |
| 製造クラス | 細かくすると価格も上がるが歩留まりも落ちる。必要な場所だけ細かく |
| アニュラリング | 片側 0.15 mm が一般。IPC クラス 3 なら 0.2 mm 以上 |
| 基板端 | 銅から端まで 0.3 mm 以上(V カットは 0.5 mm 以上) |
| 公差の積み上げ | 最悪ケースか RSS か。どちらで判断したかを記録する |
| ルールの出どころ | メーカの製造仕様書が一次情報。前の基板のコピーは事故のもと |