PCB Artwork 03 · 製造プロセス — 設計データが銅になるまで

Chapter 03

製造プロセス — 設計データが銅になるまで

この章のゴール.

「なぜ最小線幅に下限があるのか」「なぜ内層と外層でルールが違うのか」 「なぜ穴の位置に公差があるのか」——設計ルールの数字の出どころを、 工程から説明できるようになること。

製造を知らずに引いた線は、作れないか、歩留まりを落とす。

この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). ENIG(02 章 5 節)、HASL(02 章 5 節)、NSMD(02 章 4 節)、OSP(02 章 5 節)、シルク(02 章 1 節)、ソルダーレジスト(02 章 1 節)、プリプレグ(02 章 1 節)

1. 工程の全体像

両面スルーホール基板(穴の内壁にめっきをして表裏をつなぐ、最も一般的な構造)の 主要工程を順に並べる。多層基板では ②〜④ を内層ぶん先に行い、⑤ で貼り合わせる。

両面スルーホール基板の主要工程材料の裁断内層パターン形成エッチング黒化処理接着性を上げる積層プレス層ずれが生じるドリル位置 ±0.05〜0.075スルーホールめっき外層銅が厚くなる外層パターン形成エッチングソルダーレジスト±0.05 mm ずれる表面処理ENIG/OSP/HASLシルク印刷外形加工±0.1〜0.2 mm電気検査導通・絶縁の全数
多層では内層ぶんを先に作り、積層プレスで貼り合わせてから穴をあける
段工程何が起きるか生まれる公差
1材料の裁断銅張積層板を所定サイズに—
2内層パターン形成レジスト塗布 → 露光 → 現像 → エッチング線幅 ±20 % 前後
3黒化処理銅表面を粗くして接着性を上げる—
4積層プレスプリプレグを挟んで熱と圧力で一体化層厚のばらつき、層ずれ
5ドリル穴あけ穴位置 ±0.05〜0.075 mm
6スルーホールめっき穴の内壁と外層表面に銅を成長させる外層銅厚が増える
7外層パターン形成露光 → 現像 → エッチング線幅 ±20 % 前後
8ソルダーレジスト塗布 → 露光 → 現像開口位置 ±0.05 mm
9表面処理ENIG / OSP / HASL などパッド高さのばらつき
10シルク印刷部品番号などを印刷位置 ±0.1 mm
11外形加工ルータ切削 / V カット外形 ±0.1〜0.2 mm
12電気検査導通・絶縁の全数検査—

以下、設計に直結する工程だけを掘り下げる。

2. エッチング — 銅は「削って」作る

パターンは、銅を貼るのではなく、要らない銅を溶かして作る(サブトラクティブ法)。

  1. 銅の全面にレジスト(感光性の膜)を貼る
  2. 設計データのパターンを露光し、現像して、残したい銅の上だけレジストを残す
  3. 薬液で銅を溶かす(エッチング)
  4. レジストを剥がす

問題は、薬液は上からだけでなく横からも銅を溶かすことである。 これをアンダーカット(サイドエッチング)と呼ぶ。

エッチング — 銅は削って作るので、横にも溶ける設計データ(理想)レジスト銅設計幅 w断面は長方形のはず実際にできるもの設計幅 wアンダーカット(両側で銅厚ぶん)上面は設計値より細い台形になるアンダーカットは銅厚と同程度まで進むだから最小線幅は 1 oz で 0.1 mm、2 oz で 0.2 mm、3 oz で 0.3 mm と太くなる
内層は銅箔のまま(薄い)ので細く引ける。外層はめっきで厚くなるので太くなる

結果として、配線の断面は長方形ではなく台形になる。 上面の幅は設計値より狭く、根元は設計値に近い。

\[ \text{実効的な断面積} \approx w_{\text{設計}} \times t - (\text{アンダーカット分}) \]

ここから 2 つの実務的な帰結が出る。

帰結 1: 銅が厚いほど、細い線が引けない.

溶かす深さが増えれば、横方向に溶ける量も増える。 おおまかに、アンダーカットは銅厚と同程度まで進む。 35 µm(1 oz)の銅なら片側 30 µm ほど、両側で 60 µm 前後が失われる計算になる。 幅 0.1 mm(100 µm)の線を設計したら、上面は 40 µm しか残らない——もう線として成立しない。

これが「1 oz なら最小 0.1 mm、2 oz なら 0.2 mm、3 oz なら 0.3 mm」という 経験則(02 章)の物理的な根拠である。

帰結 2: 電流計算は設計値より細い線で行うべきである.

09 章で線幅から電流容量を計算するが、 実物は設計値より細い(かつ外層はめっきで厚い)。 余裕のない設計をすると、ばらつきの悪い側で温度上昇が想定を超える。

内層と外層でルールが違う理由もここにある。

内層外層
銅厚銅箔そのまま(18 or 35 µm)銅箔 + めっき(合計 45〜60 µm)
エッチング量少ない多い
最小線幅・間隔細くできる(0.075〜0.1 mm)太くなる(0.1〜0.127 mm)

「内層のほうが細い線を引ける」というのは直感に反するが、 外層はめっきで銅が厚くなるからである。 細かい配線を内層に逃がすのは、製造上も理にかなっている。

3. ドリルとめっき — 穴が層をつなぐ

スルーホール(through hole。基板を貫通する、内壁がめっきされた穴)は、 層と層を電気的につなぐための構造である。ビア(via)とも呼ぶ(12 章で詳しく扱う)。

ドリルとスルーホールめっき① ドリルで穴をあける内壁は絶縁材のまま② 無電解めっき薄い銅の種を付ける③ 電解めっき銅を 20〜25 µm に成長内壁のめっきが層をつなぐL1L2めっきで外層の銅も厚くなる(1 oz → 完成 45〜60 µm)仕上がり径 ≈ ドリル径 − 0.05〜0.1リード部品の穴は「リード径 + 0.2〜0.3 mm」。同じ径では入らない
アスペクト比(板厚÷ドリル径)が 8:1 を超えると、めっき液が奥まで回らない

工程は、

  1. ドリルで穴をあける(機械ドリル。φ0.2 mm 程度が下限、φ0.3 mm が一般的)
  2. 穴の内壁は絶縁材なので、そのままではめっきが付かない → 無電解めっきで薄い銅の種を付ける
  3. 電解めっきで銅を 20〜25 µm まで成長させる

ここで設計に効く公差が 2 つ生まれる。

① 穴位置の公差

ドリルの位置精度は ±0.05〜0.075 mm 程度である。 さらに、積層プレス時に層が相対的にずれる(層ずれ)ので、 内層のパッドから見た穴の位置は、両者を合わせて ±0.1 mm 前後ずれ得る。

だから穴の周りのパッド(ランド)には余裕が要る。 パッド半径から穴半径を引いた残りをアニュラリング(annular ring、環状の輪)と呼ぶ。

\[ \text{アニュラリング} = \frac{D_{\text{パッド}} - D_{\text{穴}}}{2} \]
アニュラリング — 穴の周りに残る銅の輪正常アニュラリング穴がパッドの中に収まっている位置がずれた細くなるが、まだつながっているブレイクアウト穴がパッドを突き破った → 断線の危険アニュラリング = (パッド径 − 穴径) / 2。一般には片側 0.15 mm 以上を確保する
ドリル位置 ±0.05〜0.075 mm に、多層では積層時の層ずれが上乗せされる

アニュラリングが公差より小さいと、穴がパッドからはみ出す(ブレイクアウト)。 はみ出すと導通が細くなり、最悪切れる。 一般的な要求は片側 0.15 mm 以上(IPC のクラス 2 相当)、 高信頼が要るなら 0.2 mm 以上を取る。04 章で公差の積み上げとして計算する。

② 穴径の公差(ドリル径と仕上がり径)

めっきが 20〜25 µm 付くので、仕上がりの穴は、ドリル径より 0.05〜0.1 mm 小さくなる。

\[ D_{\text{仕上がり}} \approx D_{\text{ドリル}} - 2 t_{\text{めっき}} \]

CAD で「φ0.3 mm の穴」と指定したとき、それがドリル径なのか仕上がり径なのかは、 CAD とメーカの取り決めで決まる。普通は仕上がり径であり、メーカが逆算してドリルを選ぶ。 ここを取り違えると、部品のリードが入らない、という古典的な失敗が起きる。

リード部品の穴は「リード径 + 0.2〜0.3 mm」が目安である.

φ0.6 mm のリードに φ0.6 mm の穴を開けても入らない。 穴の公差、リードの公差、めっき厚、はんだの入る隙間——全部足す必要がある。 φ0.8〜0.9 mm にしておくのが普通である。

4. レジストのずれと、パッド周りの寸法

ソルダーレジストも露光で作るので、銅パターンに対して ±0.05 mm 程度ずれる。

このずれがあるため、レジスト開口はパッドより片側 0.05 mm 程度大きく開ける(NSMD、02 章)。 逆に、狭ピッチのパッド間にレジストの「土手」を残したい場合、 土手の幅が 0.1 mm を切ると印刷できずに消える。

レジストのずれと、パッド周りの寸法パッドとレジスト開口破線 = レジスト開口(片側 0.05 mm 大きく)パッド間に残るレジストの土手0.1 mm を切ると印刷で消える一般的な下限レジスト開口とパッドの隙間(片側)パッド間に残す土手の幅レジスト開口と隣の銅の隙間0.05 mm0.1 mm0.05 mm0.4 mm ピッチ BGA では土手が作れないレジストは銅パターンに対して ±0.05 mm ずれる。だから開口はパッドより大きく開ける
土手が作れない場合は開口をつなげた「窓」にするか、SMD 方式にする(02 章)
寸法一般的な下限
レジスト開口とパッドの隙間(片側)0.05 mm
パッド間に残すレジスト土手の幅0.1 mm(メーカによっては 0.075 mm)
レジスト開口と隣の銅の隙間0.05 mm

0.4 mm ピッチの BGA のように、パッド間隔がもともと 0.2 mm しかない場合、 土手は物理的に作れないので、開口をつなげた「窓」にするか、SMD 方式にする。

5. 外形加工 — ルータと V カット

方式中身公差特徴
ルータ(アウトライン)直径 2 mm 前後の刃で削る±0.1〜0.2 mm任意形状。内角に刃の半径が残る(R 1 mm 程度)
V カット表裏から V 字の溝を入れ、後で折る±0.2 mm直線のみ。安い。切断面が荒い
ミシン目(ブレイクアウトタブ)小穴を並べて残し、折って外す±0.2 mm任意形状の面付けに使える。バリが残る
外形加工 — ルータと V カットルータ直径 2 mm 前後の刃で削る公差 ±0.1〜0.2 mm任意形状が作れる切断面はきれい内角に R 1 mm が残るV カット表裏から V 溝を入れて折る公差 ±0.2 mm直線のみ・端から端まで安い・面付けに便利切断面が荒いミシン目タブ小穴を並べて残し、折る公差 ±0.2 mm任意形状の面付けに使えるバリが残る研磨が要る場合があるルータは丸い刃なので、外形の内側の角には必ず半径が残る筐体に「角までぴったり」で嵌める設計は入らない。逃がしを作る
銅から基板端までは 0.3 mm 以上(V カットなら 0.5 mm 以上)空ける

「内角が直角にならない」は設計時に効く.

ルータは丸い刃で削るので、外形の内側の角には必ず半径が残る。 筐体に「角までぴったり」で嵌める設計をしていると入らない。 逃がしの穴を追加するか、機構側で角を逃がす。

そして外形基準で決まる公差は、部品の位置公差より大きい。 コネクタを筐体の開口に通すような設計では、 基板の外形から見たコネクタ位置の公差を積み上げて確認する必要がある(04 章)。

製造公差が寸法をどう動かすか

エッチングのアンダーカット、ドリル位置、層ずれ、レジストずれを操作して、 設計値がどこまで動くかを見られる。「設計値どおりの銅は存在しない」ことを体で掴んでほしい。

6. この章のまとめ

ポイント内容
エッチング銅は削って作る。横にも溶ける(アンダーカット)ので断面は台形
銅厚と線幅厚い銅ほど細い線が引けない。1 oz→0.1 mm、2 oz→0.2 mm、3 oz→0.3 mm
内層 vs 外層外層はめっきで厚くなるので、内層のほうが細く引ける
穴位置ドリル ±0.05〜0.075 mm + 層ずれ。アニュラリングは片側 0.15 mm 以上
穴径仕上がり径 ≈ ドリル径 − 0.05〜0.1 mm。リード穴はリード径 + 0.2〜0.3 mm
レジスト±0.05 mm ずれる。土手は 0.1 mm を切ると作れない
外形ルータは内角に R が残る。公差は ±0.1〜0.2 mm