Chapter 02
基板の物理構造 — 何が積み重なって「基板」になっているか
この章のゴール.
基板を横から切った断面図を、頭の中で正確に描けるようになること。 「1 oz の銅」「FR-4」「ENIG」「Tg 150」——見積書や仕様書に出てくる言葉が、 断面図のどこを指しているかを即答できるようになること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). mil(01 章 5 節)
1. 断面図 — 基板は積層体である
プリント基板は、銅箔と絶縁材を交互に貼り合わせて熱と圧力で固めた板である。 4 層基板の断面を、上から順に並べる。
| 上から | 名前 | 材質 | 代表的な厚み |
|---|---|---|---|
| 1 | シルク(シルクスクリーン) | インク | 数 µm(電気的には無関係) |
| 2 | ソルダーレジスト(レジスト、ソルダーマスク) | 感光性樹脂 | 10〜25 µm |
| 3 | L1 銅箔(外層) | 銅 | 35 µm(1 oz)+めっき |
| 4 | プリプレグ | ガラス布+半硬化樹脂 | 0.1〜0.2 mm |
| 5 | L2 銅箔(内層) | 銅 | 18 or 35 µm |
| 6 | コア | ガラス布+硬化済み樹脂 | 0.2〜1.2 mm |
| 7 | L3 銅箔(内層) | 銅 | 18 or 35 µm |
| 8 | プリプレグ | — | 0.1〜0.2 mm |
| 9 | L4 銅箔(外層) | 銅 | 35 µm +めっき |
| 10 | ソルダーレジスト、シルク | — | — |
コアとプリプレグの違いは、基板を理解するうえで意外に重要である。
| コア | プリプレグ | |
|---|---|---|
| 状態 | 樹脂が完全に硬化済みの板 | 樹脂が半硬化(B ステージ)のシート |
| 役割 | 両面に銅箔が貼られた「板」。層構成の骨格 | 積層時に溶けて隣の層を接着する「のり」 |
| 積層後の厚み | ほぼ設計値どおり | 銅箔のパターンの隙間に樹脂が流れ込むため、変動する |
プリプレグの厚みが銅の残り具合で変わる、という点は 05 章のスタックアップ設計に直接効いてくる。 「同じプリプレグでも、銅がびっしりの層に挟まれた場合と、スカスカの層に挟まれた場合とで厚みが違う」—— これがインピーダンスの製造ばらつきの主要因の 1 つである。
2. 銅箔の厚み — oz という単位
銅箔の厚みは、慣習的に oz(オンス)で表す。 これは「1 平方フィートあたり何オンスの銅を使うか」という重さの単位で、厚みそのものではない。
| 表記 | 厚み | 用途 |
|---|---|---|
| 0.5 oz | 17.5 µm | 内層、細かいパターンが要る層 |
| 1 oz | 35 µm | 最も標準。外層の既定値 |
| 2 oz | 70 µm | 電流を流す層 |
| 3 oz 以上 | 105 µm 以上 | 電源基板。ただし細い線は引けなくなる |
厚い銅は「太い線しか引けない銅」でもある.
03 章で見るように、パターンは銅を溶かして削る(エッチング)ことで作られる。 銅が厚いほど横方向にも余計に溶けるので、細い線と狭い間隔が作れなくなる。
目安として、最小線幅・最小間隔は 1 oz で 0.10〜0.127 mm、2 oz で 0.20 mm、3 oz で 0.30 mm 程度まで太くなる。 「大電流だから 3 oz にしよう」と決めた瞬間に、 その基板には細ピッチの IC が載らなくなる——これは実際によくある事故である。
なお外層の銅は、めっき工程で厚みが増える(03 章)。 1 oz の銅箔でスタートしても、スルーホールめっきを経た完成品では 45〜60 µm になる。 発注時の「1 oz」は銅箔(ベース)の厚みを指すのか完成厚を指すのか、 メーカによって流儀が違うので、電流計算をぎりぎりで詰めるときは必ず確認する。
3. 絶縁材 — FR-4 とその親戚
最も一般的な絶縁材が FR-4 である。
- FR は Flame Retardant(難燃性)、4 はガラス布エポキシ樹脂の等級を表す
- ガラス繊維を織った布に、エポキシ樹脂を含浸させて固めたもの
- 世の中の基板の圧倒的多数がこれ
基板設計で気にすべき FR-4 の性質は 4 つある。
| 性質 | 記号 | 典型値 | どこに効くか |
|---|---|---|---|
| 比誘電率 | \(\varepsilon_r\)(Dk) | 4.2〜4.6(1 GHz) | 特性インピーダンスと信号の伝わる速さ(10 章) |
| 誘電正接 | \(\tan\delta\)(Df) | 0.02 | 高周波での損失。数 GHz で効き始める |
| ガラス転移温度 | Tg | 130 / 150 / 170 ℃ | この温度を超えると樹脂が軟化する。リフロー耐性 |
| 熱膨張率(板厚方向) | CTE (z) | 40〜70 ppm/℃ | 熱でビアが縦に引っ張られる。信頼性 |
\(\varepsilon_r\) は「一定値」ではない.
FR-4 の \(\varepsilon_r\) はカタログに 4.4 と書いてあっても、 周波数が上がると下がり(1 MHz で 4.6、1 GHz で 4.3、10 GHz で 4.1 程度)、 ガラス布の織り目に対して配線がどこを通るかでも変わる。 ガラス繊維の束の上を通る配線と、樹脂だけの隙間を通る配線とでは、 実効的な \(\varepsilon_r\) が数 % 違う(ガラス織り効果、11 章で差動ペアのスキューとして再登場する)。
だからインピーダンスを ±10 % で管理する、というのは 材料のばらつきを込みでそこに収めるという意味であって、計算式の桁数の話ではない。
高速・高周波では FR-4 では損失が大きすぎるため、低損失材(\(\tan\delta\) が 0.002〜0.005 程度)に移る。 代表的な系統だけ名前を挙げておく。
| 系統 | \(\tan\delta\) の目安 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 標準 FR-4 | 0.020 | 〜1 Gbps、〜2 GHz |
| 中損失材 | 0.008〜0.012 | 〜5 Gbps |
| 低損失材 | 0.003〜0.005 | 10 Gbps 級、ミリ波以外の RF(無線周波数)回路 |
| PTFE 系(フッ素樹脂) | 0.001〜0.002 | ミリ波、高価・加工が難しい |
材料を変えると価格が数倍になる。損失が本当に問題かは 09 章・16 章の見積りで判断する。
4. ソルダーレジストとシルク
ソルダーレジスト(緑色のあれ)は、銅を覆う絶縁の膜である。役割は 3 つ。
- はんだが載ってほしくないところを覆う — はんだは濡れ広がるので、覆わないと隣のパッドまで流れて短絡する
- 銅の酸化と傷を防ぐ
- 絶縁を確保する(ただし薄いので、高電圧の絶縁を「レジスト頼み」にしてはいけない)
レジストの開口とパッドの寸法関係には 2 通りある。これは 06 章のフットプリント設計で必ず選ぶことになる。
| 方式 | 意味 | 特徴 |
|---|---|---|
| NSMD(Non-Solder Mask Defined) | レジスト開口をパッドより大きく開け、パッドの外形が銅で決まる | 寸法が正確。パッド側面にもはんだが回る。標準 |
| SMD(Solder Mask Defined) | レジスト開口をパッドより小さくし、開口でパッド外形が決まる | 銅の面積を大きく取れて剥がれにくい。BGA の一部で使う |
シルク(シルクスクリーン、シルク印刷)は部品番号や極性を書く白いインクである。 電気的には無関係だが、実装と修理の現場では死活的に重要になる。
シルクをパッドの上に印刷してはいけない.
パッドの上にインクが乗ると、はんだが濡れず、実装不良になる。 CAD の DRC(設計ルールチェック、04 章)でも必ず検査項目に入れる。 また、線幅 0.15 mm・文字高 0.8 mm 程度を下回ると印刷で潰れて読めない。
5. 表面処理 — 銅は放っておくと酸化する
外層の露出した銅(パッド)は、そのままでは酸化してはんだが付かなくなる。 何らかの表面処理(表面仕上げ)を施す。
| 処理 | 中身 | 平坦性 | 保存性 | コスト | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| HASL(有鉛/鉛フリー) | 溶けたはんだに浸けて余りをエアで吹き飛ばす | 悪い(盛り上がる) | 良 | 安 | 細ピッチ・BGA には不向き |
| OSP | 銅の表面に有機膜を作る | 非常に良い | 短い(数か月・熱履歴に弱い) | 安 | 何度もリフローすると効果が落ちる |
| ENIG(無電解ニッケル金) | ニッケルの上に薄い金 | 非常に良い | 長い | 高 | 最も無難。細ピッチ・BGA の標準 |
| 銀(Immersion Ag) | 薄い銀 | 良い | 中 | 中 | 硫化に注意 |
平坦性が効くのは BGA と細ピッチである.
BGA(Ball Grid Array=底面に格子状にはんだボールが並んだパッケージ)の はんだボールは、パッドの高さがばらつくと接触しない。 HASL は 10〜30 µm の凹凸ができるので、 0.5 mm ピッチ以下の BGA を HASL で作ると、実装歩留まりが落ちる。 試作で「なぜか特定の玉だけ付かない」と悩む前に、表面処理を確認したほうが早い。
金の厚みについても一言。ENIG の金ははんだ付けのための保護膜であって導体ではない。 厚くしすぎると、はんだの中に金が溶け込んで接合部が脆くなる(金脆化)。 必要な厚みはメーカの標準に従えばよく、設計者が指定して増やすものではない。
基板の断面と厚みを見る
層数・銅箔厚・材料を選ぶと、断面と総厚が組み上がる。 「1.6 mm の中に何がどれだけ入っているのか」を実寸感覚で掴んでほしい。
6. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 基板の正体 | 銅箔と絶縁材(コア+プリプレグ)を熱圧着した積層体 |
| 銅箔厚 | 1 oz = 35 µm。厚いほど細い線が引けなくなる |
| コアとプリプレグ | コアは硬化済みの骨格、プリプレグは溶けて接着する層。厚みが銅の残り具合で変わる |
| FR-4 | \(\varepsilon_r\)≈4.4、\(\tan\delta\)≈0.02。どちらも周波数と場所で動く |
| レジスト | NSMD が標準。シルクをパッドに乗せない |
| 表面処理 | 細ピッチ・BGA なら ENIG か OSP。HASL は平坦性が悪い |