Chapter 09
配線の基本 — 線幅・電流容量・温度上昇
この章のゴール.
「この配線は何 mm 幅にすべきか」に、 電流・温度上昇・銅厚・層から根拠をもって答えられるようになること。 そして、電流容量とは別に電圧降下という制約があることを忘れないこと。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). mil(01 章 5 節)、寄生成分(01 章 2 節)、エッチング(03 章 1 節)、IPC(04 章 3 節)、GND(05 章 3 節)、電源(05 章 3 節)、インダクタンス(08 章 2 節)
1. 線幅を決める 3 つの理由
配線の幅は、次の 3 つのうち最も厳しいもので決まる。
| 理由 | 決まり方 | 主に効く場面 |
|---|---|---|
| ① 温度上昇(電流容量) | 銅の抵抗による発熱と、基板からの放熱の釣り合い | 電源、モータ、大電流 |
| ② 電圧降下 | \(V = IR\)。許容できる電圧のずれ | 低電圧・大電流、センサの基準 |
| ③ 特性インピーダンス | 基準面との距離と誘電率(10 章) | 高速信号 |
多くの設計者が ① だけを見て決めるが、低電圧の電源では ② のほうが厳しいことが多い。 1.0 V 電源で 5 A を配るなら、50 mV 落ちただけで 5 % の誤差である。
2. 銅の抵抗 — まず基本の数字
銅の抵抗率は室温で
幅 \(w\)、厚さ \(t\)、長さ \(\ell\) の配線の抵抗は
実務ではシート抵抗という考え方が便利である。 厚さだけで決まる「正方形 1 個ぶんの抵抗」を
と定義すると、配線の抵抗は「正方形が何個並んでいるか」で計算できる。
| 銅厚 | \(R_{\square}\) | 覚え方 |
|---|---|---|
| 0.5 oz(17.5 µm) | 0.98 mΩ/□ | 約 1 mΩ/□ |
| 1 oz(35 µm) | 0.49 mΩ/□ | 約 0.5 mΩ/□ |
| 2 oz(70 µm) | 0.25 mΩ/□ | 約 0.25 mΩ/□ |
「1 oz なら 0.5 mΩ/□」だけ覚えれば、暗算できる.
幅 0.2 mm・長さ 20 mm の 1 oz 配線は、正方形が 20/0.2 = 100 個。 よって \(R = 0.5\ \text{mΩ} \times 100 = 50\ \text{mΩ}\)。
ここに 1 A 流れれば 50 mV の電圧降下、消費電力は \(I^2R = 50\ \text{mW}\)。 この暗算が数秒でできると、配線しながら判断ができる。
温度が上がると銅の抵抗も上がる。温度係数は約 0.39 %/℃ なので、
100 ℃ では 20 ℃ の 1.31 倍になる。発熱の計算は、この正帰還を含めて余裕をみる。
3. 電流容量 — 温度上昇から決める
配線に電流を流すと \(I^2R\) で発熱し、基板を通じて放熱する。 釣り合ったところが定常温度である。「何 A 流せるか」は 「何 ℃ の温度上昇を許すか」を決めない限り答えが出ない。
古くから使われてきた IPC-2221 の経験式は次の形をしている。
| 記号 | 意味 | 値 |
|---|---|---|
| \(I\) | 電流 [A] | — |
| \(\Delta T\) | 許容温度上昇 [℃] | 設計者が決める(10〜20 ℃ が一般的) |
| \(A\) | 断面積 [mil²] | 幅 × 銅厚 |
| \(k\) | 係数 | 外層 0.048、内層 0.024 |
内層の係数が外層の半分なのは、内層は樹脂に囲まれていて放熱しにくいからである。 同じ電流を流すなら、内層は外層の約 2 倍の幅が要る。
IPC-2221 は「古くて保守的」である.
この式は 1950 年代のデータに基づいており、 隣接するベタ面による放熱を考慮していない。 現代の多層基板では実際にはもっと流せることが多い。
改訂版が IPC-2152 で、こちらは 銅厚・基板厚・ベタの有無・基板材料の熱伝導率を考慮したグラフ群として与えられている。 式は単純な形をしていないが、傾向は次のとおり。
- すぐ隣にベタ面があると、同じ温度上昇で 1.5〜2 倍流せる
- 基板が厚いほど熱が広がって有利
- 空気の流れがあれば当然有利
実務では IPC-2221 で見積もって余裕を確認し、 ぎりぎりなら IPC-2152 か熱解析で詰める、という使い分けになる。
代表的な値を表にしておく(外層、1 oz、\(\Delta T = 10\) ℃、IPC-2221 ベース)。
| 電流 | 必要な線幅の目安(外層 1 oz) | 内層なら |
|---|---|---|
| 0.5 A | 0.12 mm | 0.3 mm |
| 1 A | 0.3 mm | 0.8 mm |
| 2 A | 0.8 mm | 2.0 mm |
| 3 A | 1.4 mm | 3.6 mm |
| 5 A | 2.8 mm | 7.2 mm(ベタで配るべき) |
5 A を超えたあたりで、線として引くのは非現実的になる(これは ΔT = 10 ℃ の値で、20 ℃ を許せば幅は約 0.74 倍で済む)。 そこからはベタ(ポリゴン)で配るか、銅厚を上げるか、複数層を並列にする(13 章)。
4. 電圧降下 — 見落とされがちな制約
低電圧の電源では、電流容量より電圧降下が先に問題になる。
例: コア電圧 1.0 V、3 A を、幅 1 mm・長さ 30 mm・1 oz で配る。
1.0 V に対して 4.5 % の降下である。 IC の電源電圧許容範囲が ±5 % なら、配線だけで許容の大半を使い切る。
往復で 2 倍になることを忘れない.
電圧降下は行きの配線だけでなく、帰りの GND でも起きる。 GND がベタなら降下は小さいが、細い配線で帰しているなら往復で計算する。
そして GND 側の降下は、基準電位そのものがずれることを意味する。 ADC の基準がずれれば、測定値が丸ごとずれる(17 章)。
対策は、
- 線を太くする/ベタで配る
- 距離を短くする(=配置で解決する、07 章)
- リモートセンス(負荷の位置で電圧を測ってレギュレータに返す)を使う
5. 配線の作法
角度
| 形 | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 90° の直角 | 避ける | 角の外側にエッチング液が溜まりやすく、酸が残る懸念。また角で幅が実効的に広がりインピーダンスが乱れる |
| 45° 2 回に分ける | 標準 | 実質的な問題がない。CAD の既定 |
| 円弧 | 高周波で使う | 最も滑らかだが、CAD と製造の対応が要る |
「直角は高周波でアンテナになる」は、よく言われるが誇張である.
実測・解析の結果では、直角と 45° の差は数 GHz でようやく測れる程度で、 一般的な基板では性能差はほぼない。 本当の理由は製造とインピーダンスの一様性であり、 45° にしておけば損はないので慣習として定着している、というのが正確なところである。
幅の変化とスタブ
- 線幅を急に変えると、そこでインピーダンスが変わって反射する(10 章)。変えるならテーパー(幅を少しずつ変える形)で
- スタブ(本線から分岐して行き止まりになっている枝)は高速信号では禁物。 枝の長さが 1/4 波長になる周波数で、本線を短絡したように見える(12 章のビアスタブと同じ理屈)
平行と交差
- 同じ層で長く平行に走らせるとクロストークが増える(15 章)
- 隣接層どうしは、配線方向を直交させるのが古典的な作法 (L1 は縦、L3 は横)。平行に重なる長さが減り、層間のクロストークが減る
引き回しの見た目
きれいな配線は、実務的にも良い配線であることが多い。
- 無駄な蛇行がない=長さと寄生成分が小さい
- ビアが少ない=インダクタンスと不連続が少ない
- 揃っている=レビューで異常が見つけやすい
ただし「見た目のために遠回りする」のは本末転倒である。 優先順位は、機能 → 製造性 → 見た目 の順。
線幅と電流容量を計算する
電流・許容温度上昇・銅厚・層を入れると、必要な線幅、実際の抵抗、電圧降下、 発熱が同時に出る。電流容量と電圧降下のどちらが先に効くかを確かめてほしい。
6. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 線幅を決める 3 条件 | 温度上昇・電圧降下・特性インピーダンス。最も厳しいものが決める |
| シート抵抗 | 1 oz で約 0.5 mΩ/□。「正方形が何個」で暗算できる |
| 電流容量 | \(I = k\,\Delta T^{0.44} A^{0.725}\)。内層は係数が半分=約 2 倍の幅が要る |
| IPC-2152 | ベタが隣接すると 1.5〜2 倍流せる。2221 は保守的 |
| 電圧降下 | 低電圧では電流容量より先に効く。GND 側の降下は基準のずれになる |
| 作法 | 45° で曲げる、スタブを作らない、隣接層は直交、無駄な蛇行をしない |