PCB Artwork 13 · ベタとポリゴン — 銅の面をどう置き、どうつなぐか

Chapter 13

ベタとポリゴン — 銅の面をどう置き、どうつなぐか

この章のゴール.

「とりあえず空いているところを GND ベタで埋める」という習慣を、 目的を持った設計行為に変えること。 ベタが役に立つ場合と、かえって害になる場合を区別できるようになること。

この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). エッチング(03 章 1 節)、スルーホール(03 章 3 節)、GND(05 章 3 節)、電源(05 章 3 節)、トゥームストーン(06 章 2 節)、ランド(06 章 1 節)、インダクタンス(08 章 2 節)、リターンパス(08 章 1 節)、コンデンサ(12 章 3 節)

1. ベタ(銅面)の 4 つの役割

ベタ(copper pour、ポリゴン、ソリッドフィル)とは、 配線ではなく面として広がった銅のことである。役割は 4 つある。

ベタ(銅の面)の 4 つの役割① 基準面リターン電流の道。最重要08 章② 電源分配大電流を面で配る09・14 章③ 放熱熱を横に広げて空気へ18 章④ シールドノイズ源と敏感回路を遮る19 章目的なしに置いたベタは、役に立たないどころか害になる孤立して浮いた銅はアンテナになり、細長い形は共振する。どの役割で置いているかを常に意識する
現代の既定はソリッド(べた塗り)。ハッチング(網目)はフレキ基板で使う(23 章)
役割中身章
① 基準面(リターンパス)信号のリターン電流の道。最重要08
② 低インピーダンスの電源分配大電流を面で配る09, 14
③ 放熱熱を横に広げ、空気に逃がす18
④ シールドノイズ源と敏感回路の間を遮る19

目的なしに置いたベタは、役に立たないどころか害になることがある(本章 5 節)。 どの役割で置いているのかを、常に意識する。

2. ソリッド(べた塗り)とハッチング

方式見た目使いどころ
ソリッド隙間なく埋める現代の既定。導電性・放熱性が最良
ハッチング(網目)格子状に抜く古い作法。フレキ基板、極端に反りを嫌う場合

ハッチングはかつて、銅の量を減らして基板の反りを抑える、 エッチング液の回りを良くするという製造上の理由で使われた。 現代の製造技術では不要で、ソリッドのほうが電気的にも熱的にも優れる。

ただしフレキ基板(23 章)では、ソリッドの銅は曲がらないので、 今もハッチングが標準的に使われる。

3. サーマルリリーフ — はんだ付けのための「わざとの細さ」

ベタに直接つながったパッドは、熱がベタ全体に逃げるため、はんだごてやリフローで温まらない。 温まらなければ、はんだが溶けない。

そこで、パッドとベタを細い橋(スポーク)数本だけでつなぐ。 これがサーマルリリーフ(thermal relief、サーマルランド、熱抜きパッド)である。

サーマルリリーフ — はんだ付けのための「わざとの細さ」直結(ソリッド接続)電気抵抗は最小。熱が逃げてはんだ付けしにくい4 スポーク ← 既定細い橋 4 本でつなぐ。手はんだ・スルーホールに必須2 スポークさらに熱が逃げにくい。手はんだ主体の場合サーマルリリーフは抵抗である。大電流には使わない幅 0.4 mm × 4 本は実効 1.6 mm 相当。5 A を流すパッドに使うと、そこだけが発熱する逆に、手はんだ・修理を想定する部品は必ずサーマルリリーフに(直結だと永遠に溶けない)
チップ部品の両側の熱容量は揃える。片側だけベタ直結だとトゥームストーンの原因になる(21 章)
方式熱の逃げ電気抵抗使いどころ
直結(ソリッド接続)大きい(はんだ付けしにくい)最小大電流、放熱重視、リフローのみ
サーマルリリーフ(4 スポーク)小さいやや大きい既定。特にスルーホール部品
2 スポークさらに小さい大きい手はんだ主体の場合

スポークの寸法の目安:

項目値
スポーク幅0.3〜0.5 mm(電流に応じて)
スポーク数4 本
内側の隙間(エアギャップ)0.25〜0.5 mm

サーマルリリーフは抵抗である。大電流には使わない.

幅 0.4 mm のスポークが 4 本なら、実効的には幅 1.6 mm の配線 1 本ぶん。 1 oz なら、ごく短い距離とはいえ数 mΩ が直列に入る。

5 A を流すパワー部品のパッドをサーマルリリーフにすると、 そこだけが発熱する。大電流部品は直結にし、 はんだ付けはリフローの熱プロファイルで対応する(21 章)。

逆に、手はんだや修理が想定される部品は必ずサーマルリリーフにする。 直結された GND ピンは、こてを当てても永遠に溶けない。

表面実装部品でも同じ問題が起きる。 チップ部品の片側だけがベタに直結、もう片側が配線につながっていると、 左右で温まり方が違う→ トゥームストーン(06 章)の原因になる。 チップ部品の両側の熱容量は揃えるのが原則である。

4. スティッチングビア — 面と面をつなぐ

複数の層に GND 面があるとき、それらをビアでたくさんつなぐ。 これをスティッチングビア(stitching via、縫い合わせビア)と呼ぶ。

スティッチングビア — 面と面を縫い合わせるλ/20 間隔で全面に。基板端はビアフェンス目的① リターン電流の乗り換え(08・12 章)② 面どうしの電位を揃える③ 平行平板の共振を抑える(14 章)実務: 5〜10 mm 間隔で全面、高速ビアの近くと基板端は密にλ = c / (f √εr)1 GHz → λ/20 = 7 mm3 GHz → 2.4 mm / 5 GHz → 1.5 mm表層ベタは、λ/20 でビアを打って初めて意味がある。打たないなら置かないほうがマシである
2 枚の面の間は端の開いた平行平板共振器。外周にビアを並べると電気的な壁ができて漏れが減る

目的は 3 つ。

目的中身
リターン電流の乗り換え信号が層を移るとき、リターンも移る道を作る(08 章・12 章)
面どうしの電位を揃える離れた場所で電位差が生じるのを防ぐ
共振を抑える2 枚の面の間は平行平板の共振器になる(14 章)。ビアで区切ると共振周波数が上がる

間隔をどう決めるか

経験則として、

\[ \text{ビア間隔} \le \frac{\lambda_{\min}}{20} \quad\text{あるいは}\quad \frac{\lambda_{\min}}{10} \]

\(\lambda_{\min}\) は気にする最も高い周波数の、基板中での波長である。

\[ \lambda = \frac{c}{f\sqrt{\varepsilon_r}} \]
上限周波数基板中の波長(\(\varepsilon_r\)=4.3)\(\lambda/20\)
1 GHz145 mm7 mm
3 GHz48 mm2.4 mm
5 GHz29 mm1.5 mm

実務では 5〜10 mm 間隔で全面に、高速信号のビアの近くと基板端には密に、 というのが標準的な運用である。

基板の端(エッジ)には必ずスティッチングを打つ.

2 枚の面の間の空間は、端が開いた平行平板の共振器である。 端から電磁波が漏れる(エッジ放射)ので、 外周に沿って λ/20 間隔でビアを並べると、電気的な壁ができて漏れが減る。 これをビアフェンスと呼ぶ。19 章で再登場する。

5. ベタの落とし穴

ベタの落とし穴孤立した銅浮いた電位でアンテナになる孤立領域を自動削除細い首(ネック)大電流とリターンが破綻する流したあと目で見る細長い形λ/4・λ/2 で共振する途中にビアを打って区切る縫っていない表層ベタ大きな浮いた金属板になるλ/20 でスティッチングベタを流したあとに、必ず「流れた形」を目で見る「ベタを流したから大丈夫」ではない。自動生成の結果を確認するのは設計者の仕事である
銅の残り率を均一にする目的だけで表層ベタを置くのは、それはそれで正当な理由になる(20 章)

① 孤立した銅(アイランド)

自動でベタを流すと、配線に囲まれてどこにもつながっていない銅の島ができることがある。

対策: CAD の「孤立領域を削除」機能を有効にする。 あるいは最小面積を設定して、それ未満は消す。 どうしても残る場合はビアで GND につなぐ。

② 細い首(ネック)

ベタが配線に挟まれて細くなった箇所は、大電流の経路として破綻する。 また、リターン電流がそこに集中して共通インピーダンス結合を起こす。

対策: ベタを流したあとに、必ず目で見る。 「ベタを流したから大丈夫」ではなく、流れた形を確認する。

③ 表層の「なんとなくベタ」

空いている場所を GND で埋めるという習慣には、実は議論がある。

利点欠点
シールド効果(限定的)面積が大きく、ビアが少ないと浮いた板になる
銅の残り率が均一になり、エッチングと反りに有利隣接配線との容量が増え、\(Z_0\) が下がる(10 章)
放熱微小な隙間が細長いスリットになり、共振する

表層ベタを置くなら、必ずビアで縫う.

表層の GND ベタは、λ/20 間隔でスティッチングビアを打って初めて意味がある。 ビアなしの表層ベタは「大きな浮いた金属板」であり、 対策どころか新しい放射体になり得る。

ビアを打つ気がないなら、置かないほうがマシである。 ただし製造上の銅残り率の均一化という目的だけなら、 それはそれで正当な理由になる(メーカに確認するとよい)。

④ アンテナになる細長い形

細長いベタは、スロットアンテナ(導体の細長い穴が放射体になるもの)やモノポール(1 本の棒として放射するアンテナ)として共振する。 長さが λ/4 や λ/2 になる形を作らない。 どうしても細長くなるなら、途中にビアを打って電気的に短く区切る。

6. 電源のベタ

電源も面で配ると、抵抗とインダクタンスが下がる。

方式使いどころ
専用の電源層系統が少なく、大電流。4 層以上
層の一部をポリゴンで分割複数の電源系統。分割はここでは正当
太い配線系統が多く、電流が小さい

電源層を系統ごとに分割するのは正しい(GND の分割とは事情が違う)。 ただし、分割線の上を信号線が横切ってはいけないという制約は同じである。

なぜ電源面の分割は許されるのか.

08 章で GND の分割を禁じたのは、 リターン電流がそこを流れるからだった。

電源面も、実は交流的にはリターンパスになり得る (電源とGND はデカップリングコンデンサで交流的につながっているため)。 だから電源面を基準面にしている信号線が、電源の分割線を横切るのは同じくらい悪い。

電源面の分割が許されるのは、 その信号の基準面が別にある(GND 面が隣接している)場合である。 「電源は分けてよい」ではなく、 「その信号のリターンが通る面を切らない」が一貫した原則である。

電源面の分割は許される — ただし条件つき× 分割線を信号が横切る3.3 V1.8 V!この信号の基準面が電源面なら破綻する○ 信号の基準面が別の GND 面にある連続した GND 面リターンは GND 面を通る → 電源の分割は無関係一貫した原則は 1 つ: その信号のリターンが通る面を切らない「電源は分けてよい/GND は分けてはいけない」ではなく、リターンの通る面かどうかで決まる
電源面も、デカップリングコンデンサで GND と交流的につながっているのでリターンパスになり得る

サーマルランドの効きを見る

スポークの幅・本数と、直結との差を、熱抵抗と電気抵抗の両面で比較できる。 「はんだ付けできる」と「電流が流せる」のトレードオフを掴んでほしい。

7. この章のまとめ

ポイント内容
ベタの役割基準面・電源分配・放熱・シールド。目的なしに置かない
ソリッド vs ハッチ現代はソリッドが既定。ハッチはフレキ用
サーマルリリーフ手はんだ・スルーホールには必須。大電流部品には使わない
チップ部品両端の熱容量を揃える(トゥームストーン対策)
スティッチングλ/20 間隔。基板端はビアフェンス。表層ベタは縫って初めて意味がある
落とし穴孤立した島、細い首、細長い共振形状
電源面の分割許されるが、その面を基準にしている信号が横切らないことが条件