Chapter 05
層構成(スタックアップ)— すべてはここで決まる
この章のゴール.
層構成を「層数を決めること」ではなく、 リターン電流の道とインピーダンスの素地を決めることとして理解すること。 そして 2 層・4 層・6 層の典型的な並びを、根拠つきで選べるようになること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 基板メーカ(01 章 4 節)
1. スタックアップとは
スタックアップ(層構成)とは、 「どの層に何を配置し、層と層の間を何 mm 空けるか」を決めた表のことである。
これは配線を始める前に決めなければならない。理由は 3 つ。
- 特性インピーダンス(10 章)は、配線と基準面の距離で決まる。距離が決まらないと線幅が決まらない
- リターン電流(08 章)の道が層構成で決まる。ここが悪いと配線でいくら頑張っても取り返せない
- 板厚と層数は価格と納期に直結し、機構設計にも関わる
2. 基準面(リファレンスプレーン)という考え方
高速信号を理解する鍵は、信号線は単独では存在しないという事実である。
配線に電流が流れれば、必ず同じ大きさの電流が逆向きに戻ってくる。 その帰り道になるのが、配線のすぐ近くにあるベタ銅の面——基準面(リファレンスプレーン)である。 グラウンド面であることが多いが、電源面でもよい(交流的には同じこと。08 章で扱う)。
「配線」とは、信号線と基準面の 2 本で 1 組である.
片方だけ見て設計してはいけない。 信号線がどれだけきれいに引かれていても、その真下に基準面がなければ、 帰り道は遠回りを強いられ、大きなループができる。 ループはインダクタンスであり、アンテナである(19 章)。
だから層構成の第一原則は、 「速い信号を通す層の隣には、必ず連続した基準面を置く」である。
3. 典型的な層構成
2 層基板
| 層 | 内容 |
|---|---|
| L1(表) | 部品と配線 |
| L2(裏) | できる限りグラウンドベタ、やむを得ない配線のみ |
2 層基板で最も多い失敗は、裏面を配線で切り刻んでしまうことである。 裏面がグラウンドベタとして連続していれば、表面の配線は真下に帰り道を持てる。 そこに配線を通してベタを分断すると、その部分の帰り道が消える。
2 層基板の鉄則: 裏面は「配線層」ではなく「基準面」である.
どうしても裏面に配線が必要なら、 ベタを横切る向きではなく、ベタの端に沿って引く。 そして横切ってしまった場合は、切れ目の両側をコンデンサでつなぐか、 切れ目をまたぐ信号を近くに集める(08 章)。
板厚 1.6 mm の 2 層基板では、L1 と L2 の間が 1.5 mm もある。 これは基準面が遠すぎるということで、 インピーダンスを 50 Ω にしようとすると線幅が 2.8 mm 必要になる(現実的でない)。 2 層基板でインピーダンス制御はしない、というのが実際の判断になる。
4 層基板 — 最も使われる構成
| 層 | 標準的な使い方 | 用途 |
|---|---|---|
| L1 | 部品・配線 | 主配線層 |
| L2 | グラウンドベタ(分断しない) | L1 の基準面 |
| L3 | 電源ベタ(または配線) | L4 の基準面/電源分配 |
| L4 | 配線 | 副配線層 |
厚みの配分が重要である。標準的な 1.6 mm 板では次のようになる。
| 区間 | 厚み | 理由 |
|---|---|---|
| L1–L2 | 0.1〜0.2 mm | 薄いほど良い。インピーダンスが取りやすく、リターンが近い |
| L2–L3 | 1.2 mm 前後(コア) | ここは厚くてよい。板厚の帳尻を合わせる |
| L3–L4 | 0.1〜0.2 mm | L1–L2 と対称にする |
なぜ L1–L2 を薄くするのか.
理由は 3 つある。
- インピーダンスが現実的な線幅で取れる。 誘電体厚 0.1 mm なら 50 Ω の線幅は約 0.18 mm。 厚 0.5 mm なら約 0.9 mm——太すぎて引けない(10 章)
- リターン電流のループ面積が小さくなる。 放射も、インダクタンスも減る(19 章)
- クロストークが減る。 基準面が近いほど、隣の配線への結合が減る(15 章)
逆に L2–L3 を厚くするのは、総厚 1.6 mm を守るための帳尻であり、 ここに機能はほとんどない(電源面とグラウンド面の容量は稼げるが、高い周波数では効かない。14 章)。
対称性にも意味がある。上下で層構成が非対称だと、 プレス時の熱と収縮の差で基板が反る。 「L1–L2 と L3–L4 を同じ厚みに、L2 と L3 の銅の残り具合も似せる」のが原則である。
6 層基板
配線層が足りない、あるいは高速信号を専用層に逃がしたいときに 6 層へ行く。 典型的な 2 案を挙げる。
| 層 | 案 A(配線層を多く取る) | 案 B(SI=シグナルインテグリティ、信号の波形が壊れないことを重視) |
|---|---|---|
| L1 | 配線 | 配線(高速) |
| L2 | GND | GND |
| L3 | 配線 | 配線(低速) |
| L4 | 配線 | 電源 |
| L5 | 電源 | GND |
| L6 | 配線 | 配線(高速) |
案 B が SI(シグナルインテグリティ、信号の波形が壊れないこと)には有利である。 L1 と L6 の高速信号がそれぞれ隣接した GND を基準面として持ち、 L4–L5 の電源–GND ペアが薄ければ電源のインピーダンスも下がる。 一方で配線層が 3 層(L1、L3、L6)しかない。
案 A は配線層が 4 層あるが、L3 と L4 が向かい合っている。 この 2 層は互いに隣接した基準面を持たないので、 ここに高速信号を通すと帰り道が遠くなる。低速信号専用と割り切るなら成立する。
層を増やす順番は「配線層」ではなく「基準面」である.
「配線が入りきらないから 6 層に」という理由で層を増やすと、 増えた層が基準面のない層になり、SI が悪化することがある。 増やすなら GND 面ごと増やす——つまり 4 層の次は 6 層で、 そのうち少なくとも 1 層は新しい GND に使う。
4. 層構成を決める手順
- 高速・敏感なネットを数える。 何本、どの層に通す必要があるか
- それぞれに隣接基準面を割り当てる。 ここで必要な GND 面の数が決まる
- 電源系統の数と電流を確認する。 面が要るか、太い配線で足りるか
- 配線層の数を見積もる。 密度から概算(BGA なら「ピン列数 − 1」が目安)
- 総厚と対称性を整える。 1.6 mm に収まるか、上下対称か
- メーカの標準構成に当てはめる。 ← これが重要
- インピーダンス計算(10 章)→ 線幅を確定
メーカの「標準スタックアップ」から選ぶのが最も安く、速く、確実である.
基板メーカは、よく使う層構成をあらかじめ材料の組み合わせとして持っている。 そこから選べば、追加費用なし・納期どおり・インピーダンスの実績値つきで作れる。
独自の厚み配分を指定すると、材料の手配から始まって納期が伸び、価格も上がる。 特別な理由がない限り、メーカの標準表から選ぶ。 ほとんどのメーカが、標準構成ごとの 50 Ω / 100 Ω 差動の推奨線幅まで公開している。
5. インピーダンス制御を発注するということ
「インピーダンス制御基板」として発注すると、メーカは 実物の基板の隅にテスト用のパターン(クーポン)を作り、実測して規格内かを保証する。
| 項目 | 一般的な値 |
|---|---|
| 公差 | ±10 %(厳しくすると +費用) |
| 追加費用 | 数千円〜(1 ロットあたり) |
| 納期 | +1〜2 日 |
指定するのは「この層のこのネットクラス(CAD 上で同じ配線ルールを適用するネットのグループ)を 50 Ω シングルエンド、100 Ω 差動で」という要求であり、 線幅はメーカが決め直すのが普通である(自社の実際の材料厚と銅厚で計算するため)。 設計時に自分で計算した線幅は「見積り」であって、最終値ではない。
層構成を組み立てる
層数・各層の役割・誘電体厚を選ぶと、総厚・対称性・各配線層の基準面の有無、 そして代表的な線幅での特性インピーダンスが出る。 「L1–L2 を薄くすると何が良くなるか」を数字で確かめてほしい。
6. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| スタックアップの本質 | 層数ではなく、リターン電流の道とインピーダンスの素地を決めること |
| 基準面 | 速い信号を通す層の隣には必ず連続した基準面。配線は信号線+基準面で 1 組 |
| 2 層 | 裏面は基準面。配線で切り刻まない。インピーダンス制御は諦める |
| 4 層 | L1–L2 と L3–L4 を薄く(0.1〜0.2 mm)、L2–L3 で板厚の帳尻。上下対称に |
| 6 層 | 増やすなら GND 面ごと増やす。基準面のない配線層を作らない |
| 発注 | メーカの標準構成から選ぶのが最も安く速い。線幅はメーカが決め直す |