Chapter 07
部品配置 — アートワークの 8 割はここで決まる
この章のゴール.
配置を「部品を並べる作業」ではなく、 電流の経路を先に設計する作業として理解すること。 そして、配置の良し悪しを配線を引く前に判断できる指標を持つこと。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 寄生成分(01 章 2 節)、部品配置(01 章 3 節)、ルータ(03 章 5 節)、GND(05 章 3 節)、電源(05 章 3 節)、トゥームストーン(06 章 2 節)、禁止領域(06 章 1 節)
1. なぜ配置が支配的なのか
配線でできることは、配置で決まった距離を、どう埋めるかでしかない。
- 配置が良ければ、配線は短く、まっすぐ、少ないビアで済む
- 配置が悪ければ、どんなに丁寧に配線しても長く、遠回りし、層をまたぐ
そして 01 章で見たとおり、寄生成分は長さで決まる。 配置は寄生成分の上限を先に決めてしまう作業である。
配線ツールの自動配線(オートルータ)が役に立たない理由もここにある.
自動配線は「配置を所与として、つながる経路を探す」道具である。 配置が悪ければ、自動配線は悪い配置を忠実に反映した悪い配線を出す。 「オートルータの結果が汚い」と感じたら、多くの場合配置を疑うべきである。
2. 配置の順序 — 動かせないものから固定する
配置は自由度の低い順に決めていく。後から動かせないものを先に置く。
| 順 | 何を | 決める根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 機構で位置が決まるもの | コネクタ、スイッチ、LED、取付穴、放熱部品 → 筐体図面 |
| 2 | 大きい IC・BGA | 配線の中心になる。向きも含めて決める |
| 3 | その IC の周辺必須部品 | デカップリング、水晶、基準抵抗、終端 |
| 4 | 電源回路 | 入力から出力へ、電流の向きに素直に並べる |
| 5 | アナログ・敏感な回路 | ノイズ源から離す(17 章) |
| 6 | 残り | 上の制約に沿って埋める |
① 機構で決まるもの
コネクタ・スイッチ・表示——これらは筐体が位置を決めるので、設計者に選択の余地がない。 最初に置き、動かさない。 機構図面がまだ確定していないなら、確定するまで配線を始めないのが正しい判断である。
② 大きい IC の向き
BGA や大きな QFP は、ピン配置を見て向きを決める。
- メモリインタフェースが出ているのは IC のどの辺か → その方向にメモリを置く
- 電源ピンが集まっているのはどこか → その方向に電源回路
- アナログ系のピンはどこか → その方向にアナログ回路
IC を 90° 回すだけで、配線の総距離が半分になることがある。 配置の初期に、上位の数ネットだけを直線で結んで(ラッツネスト—— 未配線のネットを直線で表示したもの)、絡まりが最小になる向きを探す。
3. 配置の 5 つの原則
原則 1: 電流の環(ループ)を小さくする
これが最も重要である。電流は必ず環を作って戻る。 その環が囲む面積が、インダクタンスと放射を決める(19 章)。
| 環 | 小さくすべき理由 |
|---|---|
| IC の電源ピン → デカップリングコンデンサ → GND | 高い周波数の電流の環。最小にする(14 章) |
| スイッチング電源の入力ループ | 最も激しい環。ここが EMC の最大の発生源(19 章) |
| 信号線 → 受け側 → GND | ループ面積が放射と受信感度を決める |
原則 2: 電流の向きに素直に並べる
電源回路は「入力 → 保護 → 変換 → 出力」の順に、一方向に並べる。 行きつ戻りつする配置にすると、大電流の配線が交差し、 入力側のノイズが出力側に飛び移る(入出力の結合)。
信号も同じで、「コネクタ → 保護 → バッファ → IC」と流れを作る。 基板の上に、信号と電力の「流れ」が見えるようにするのが良い配置である。
原則 3: ノイズ源と敏感な回路を分ける
| 分類 | 例 |
|---|---|
| 強い発生源 | スイッチング電源、クロック発振器、モータドライバ、高速インタフェース |
| 敏感な受け手 | アナログ入力、ADC、基準電圧、高利得アンプ、無線受信部 |
これらは物理的に離すのが最も確実で、最も安い対策である。 離せないなら、間に GND ビアの列を置く(13 章のスティッチング)か、 層で分ける(間に GND 面を挟む)。
「あとでシールドを付ければいい」は最も高い対策である.
配置で 10 mm 離すのはタダだが、シールドケースは部品代・実装費・工数がかかり、 修理性も落ちる。配置の段階で解決できることは、配置で解決する。
原則 4: 熱源を分散し、逃がす
発熱部品(レギュレータ、パワー MOSFET(電力を切り替えるスイッチ素子)、大電流のコネクタ)を密集させない。 基板は熱を横に広げる板でもある(18 章)。
- 発熱部品どうしを離す
- 温度に敏感な部品(基準電圧 IC、水晶、電解コンデンサ)を熱源から離す
- 熱源の周りに銅を確保する
原則 5: 実装できる配置にする
| 項目 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 部品どうしの隙間 | 0.5 mm 以上(背の高い部品は 1 mm 以上) | 実装機のノズル、検査、修理 |
| チップ部品の向き | 同じ向きに揃える | 実装速度、検査、トゥームストーン低減 |
| 基板端からの距離 | 3〜5 mm(搬送レール部分は部品禁止) | 実装機が基板を掴む場所 |
| 背の高い部品 | 低い部品の影にしない | 光学検査(AOI)が見えなくなる |
| コネクタの向き | 挿抜方向に工具・指が入る | 組立作業性 |
チップ部品の向きを揃えると、トゥームストーンが減る.
06 章で触れたトゥームストーン(部品が立つ不良)は、 左右のランドの温まり方の差で起きる。 リフロー炉の中で基板が進む方向に対して部品の向きがバラバラだと、 熱の当たり方の差が部品ごとに変わり、不良が読めなくなる。 揃えておけば、条件を追い込める(21 章)。
4. 配置の良し悪しを測る
配線を引く前に、配置の質を判断する指標がいくつかある。
| 指標 | 見方 |
|---|---|
| ラッツネストの総長 | 短いほど良い。CAD が数値で出せる |
| ラッツネストの交差数 | 交差が多い=層をまたぐ必要がある=ビアが増える |
| 配線密度の見積り | 必要な配線本数 ÷ 通せる本数。1 を超える箇所は破綻する |
| BGA の脱出(エスケープ) | 外周から数えて何列目まで表層で出せるか(12 章) |
配線密度の簡単な見積りを示す。 幅 \(W\) の隙間に、線幅 \(w\)・間隔 \(s\) の配線を通せる本数は
たとえば 2 つの部品の間の隙間が 3 mm、線幅 0.15 mm・間隔 0.15 mm なら
ここに 15 本通す必要があるなら、配置を変えるか、層を増やすしかない。 これを配線前に気づけるかどうかが、手戻りの分かれ目である。
配置を動かして配線長を見る
部品を動かすと、ラッツネストの総長・交差数・ループ面積が連動して変わる。 「良い配置」が数字としてどう現れるかを掴んでほしい。
5. 配置のチェックリスト
- ☐ 機構で決まる部品は、確定した図面に基づいて置いたか
- ☐ 大きい IC の向きを、ラッツネストで検討したか
- ☐ デカップリングコンデンサは、対応する電源ピンのすぐ隣にあるか(14 章)
- ☐ スイッチング電源の入力ループが最小になっているか(19 章)
- ☐ ノイズ源と敏感回路が離れているか、間に対策があるか
- ☐ 発熱部品が密集していないか。熱に弱い部品が近くにないか
- ☐ 部品間隔・基板端の禁止領域・部品高さを満たしているか
- ☐ 背の高い部品が低い部品を隠していないか
- ☐ チップ部品の向きが揃っているか
- ☐ 配線密度が破綻している箇所がないか
- ☐ テストポイント(21 章)の場所が確保されているか
6. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| なぜ支配的か | 配線は配置で決まった距離を埋めるだけ。寄生成分の上限は配置が決める |
| 順序 | 動かせないもの(機構)→ 大きい IC → 周辺部品 → 電源 → アナログ → 残り |
| 原則 1 | 電流の環を小さくする。特にデカップリングとスイッチング電源の入力 |
| 原則 2〜5 | 流れに沿って並べる/ノイズ源と敏感回路を離す/熱を分散する/実装できる形に |
| 判断指標 | ラッツネスト総長・交差数・配線密度。配線前に測る |
| 自動配線 | 悪い配置を忠実に反映する。結果が汚いなら配置を疑う |