組み込み回路 01 · 電圧・電流・抵抗 — 回路を読むための最小限

Chapter 01

電圧・電流・抵抗 — 回路を読むための最小限

この章がなぜ必要なのか——ここを曖昧にすると、以降がすべて崩れる.

「電圧は電位差」「電流は電荷の流れ」——これは正しいが、 回路を読むときに使える形になっていない。

実務で必要なのは次の 3 つである。

  1. どこを基準に測っているか(電圧は必ず「2 点間」の量)
  2. どこへ流れて、どこへ帰るか(電流は必ずループを作る)
  3. オームの法則とキルヒホッフの 2 法則(これで 9 割の回路が解ける)

1. 電圧は「2 点間」の量である

電圧は必ず 2 点の差である。「この点の電圧は 3.3 V」と言うとき、 暗黙に「GND を基準にして」と言っている。

VCC = 3.3 VA 点RB 点RGND = 0 VA–B 間 = 1.65 V「電圧」はこの 2 点の差A–GND 間 = 3.3 V基準を書かない電圧に意味はない
電圧は必ず 2 点の間で定義される。「B 点の電圧」と言えるのは GND を基準に決めているから
表記意味
「A 点の電圧は 3.3 V」GND に対して 3.3 V
「B 点の電圧は 1.65 V」GND に対して 1.65 V
「A-B 間の電圧は 1.65 V」A の電位 − B の電位

これが分からないと、差動信号(20 章)が理解できない.

CAN や RS-485 や LVDS は、GND を基準にしない。 2 本の線の差だけを見る。だから GND がずれてもノイズが乗っても通信できる。

「電圧は 2 点間の量である」という定義を、最初から徹底しておくこと。

2. 電流はループを作る

電流は必ず「出て、帰る」。片道はありえない。

電源負荷電流 I同じ電流が必ず帰ってくるこの閉じた輪が「回路」どこか 1 か所でも切れれば電流は流れない
電流は必ずループを作る。行きだけを考えて帰り道を忘れるのが、あらゆる設計事故の出発点になる

「リターンパスをどこに通すか」が、EMC と信号品質のすべてを決める(23 章・24 章)。

高速信号では、リターン電流は信号線の真下のグラウンドプレーンを流れる。 グラウンドプレーンに切れ目があると、電流は迂回する。 迂回した経路が作るループが、アンテナになる。

初心者は「GND はどこも 0 V だから、どう繋いでもよい」と考えるが、 これが最大の誤解である。 24 章で詳しく扱う。

3. オームの法則

\[ V = I \cdot R \]
求めるもの式
電圧\(V = I R\)
電流\(I = V / R\)
抵抗\(R = V / I\)

そして消費電力は

\[ P = V \cdot I = I^2 R = \frac{V^2}{R} \]

オームの法則と分圧を確かめる

抵抗値と電源電圧を変えて、各点の電圧・電流・消費電力を確かめられる。

\(P = I^2 R\) の形が実務では最も使われる.

「この抵抗に 100 mA 流れる。10 Ω なら何 W か」

$$P = (0.1)^2 \times 10 = 0.1\ \text{W}$$

チップ抵抗の定格は 1608(0603 インチ)で 0.1 W、2012(0805)で 0.125 W が典型的。 ぎりぎりだと熱で壊れる。 実務では定格の 50 % 以下で使う。

4. 分圧回路 — 最も使う回路

VinR1VoutR2Vout = Vin · R2/(R1+R2)外から見た出力抵抗R1∥R2ここに負荷が付くと崩れる
分圧比は抵抗比だけで決まるが、外から見た出力抵抗は R1∥R2 になる。ここに負荷がぶら下がると分圧は崩れる
\[ V_{out} = V_{in} \cdot \frac{R_2}{R_1 + R_2} \]

導出

直列なので同じ電流が流れる。

\[ I = \frac{V_{in}}{R_1 + R_2} \]

\(R_2\) にかかる電圧は

\[ V_{out} = I \cdot R_2 = V_{in} \cdot \frac{R_2}{R_1 + R_2} \]

実務での使いどころ

用途内容
電圧測定12 V を ADC の 3.3 V 範囲に落とす
レベル判定電源電圧の監視
バイアス基準電位を作る
設定抵抗IC の出力電圧やモード設定

分圧回路の最大の落とし穴: 出力にインピーダンスがある.

分圧回路の出力から電流を取ると、出力電圧が下がる。

等価的には、出力に \(R_1 \parallel R_2\)(並列合成)の抵抗が直列に入っている (テブナンの等価回路)。

$$R_{out} = \frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}$$

たとえば \(R_1 = R_2 = 10\) kΩ なら \(R_{out} = 5\) kΩ。 ここから 100 µA を取ると 0.5 V も下がる。

ADC に直結するときは特に注意(17 章)。 ADC のサンプリング容量を充電する電流が流れるので、 ソースインピーダンスが高すぎると誤差になる。 一般に 数 kΩ 以下にするか、オペアンプでバッファする(08 章)。

並列合成抵抗

\[ \frac{1}{R_{total}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} + \cdots \]

2 本なら

\[ R_{total} = \frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2} \]

覚え方: 同じ値を 2 本並列にすると半分。 10 kΩ × 2 → 5 kΩ。

5. キルヒホッフの法則

この 2 つで、線形回路はすべて解ける。

電流則 (KCL) — 節点に集まる電流の和は 0

\[ \sum I_{in} = \sum I_{out} \]
I1I2I3I1 = I2 + I3節点入る電流の和 = 出る電流の和
キルヒホッフの電流則。節点に電荷は溜まらないので、入った分だけ必ず出ていく

意味: 電荷はどこにも溜まらない。 入ってきた分は必ず出ていく。

電圧則 (KVL) — 閉ループの電圧の和は 0

\[ \sum V = 0 \]
VR1R2一周すると必ず元の電位に戻るV − I·R1 − I·R2 = 0
キルヒホッフの電圧則。閉ループを一周したときの電位の変化の合計はゼロになる

意味: 一周して戻ってくれば、電位は元に戻る。

実務での使い方は「電源電圧を配分する」である.

「3.3 V の電源に、LED(順方向 2.0 V)と抵抗を直列に繋ぐ。抵抗にかかる電圧は?」

$$V_R = 3.3 - 2.0 = 1.3\ \text{V}$$

「20 mA 流したいなら抵抗は?」

$$R = \frac{1.3}{0.02} = 65\ \Omega \quad \rightarrow \quad \text{E24 系列で } 68\ \Omega$$

これが KVL の最も基本的な使い方である。

6. 抵抗値の系列(E 系列)

抵抗は任意の値では売っていない。対数的に配置された系列から選ぶ。

系列精度1 桁あたりの本数
E12±10 %12
E24±5 %24
E96±1 %96
E192±0.5 % 以下192

E24 の値(覚える価値がある):

1.01.11.21.31.51.6
1.82.02.22.42.73.0
3.33.63.94.34.75.1
5.66.26.87.58.29.1

なぜ対数的なのか.

\(n\) 本の系列は、公比 \(10^{1/n}\) の等比数列である。

E24 なら \(10^{1/24} \approx 1.10\)——つまり隣どうしが約 10 % 違う。 ±5 % の精度で作るなら、これですべての値をカバーできる。

精度と系列の細かさが対応している、という設計になっている。

7. 実際の抵抗器

種類特徴用途
厚膜チップ抵抗安い。±1〜5 %。温度係数 ±100〜200 ppm/°C汎用(大多数)
薄膜チップ抵抗±0.1 %。温度係数 ±10〜25 ppm/°C。高価高精度アナログ
金属板(シャント)抵抗数 mΩ。大電流。低インダクタンス電流検出(22 章)
巻線抵抗大電力。インダクタンスが大きい高周波には使えない

見落とされる特性

特性内容
温度係数 (TCR)100 ppm/°C なら、50 °C 上昇で 0.5 % 変化
定格電力サイズで決まる。実装状態(放熱)にも依存
最大電圧小型チップ抵抗では 50〜150 V 程度。高電圧では分割する
寄生インダクタンス巻線抵抗では特に大きい。高周波で抵抗値が上がる
ノイズ厚膜は薄膜より電流ノイズが大きい

精度が要るのは「比」であって「絶対値」ではないことが多い.

分圧回路の出力は \(R_2/(R_1+R_2)\) なので、比だけで決まる。 同じロットのチップ抵抗は温度係数が揃うので、 温度が変わっても比はあまり変わらない(トラッキングがよい)。

高精度が要るなら抵抗アレイ(複数の抵抗が同一チップ上にある部品)を使う。 絶対精度は ±1 % でも、比の精度は ±0.05 % といった製品がある。

8. 回路図の読み方

よく出る記号

記号部品注意
ジグザグ または 長方形抵抗米国式(ジグザグ)と IEC 式(長方形)
平行線 2 本コンデンサ片方が曲線 = 有極性(電解・タンタル)
コイルインダクタ線が入っていればフェライトコア
三角形 + 線ダイオード帯がカソード側
下向き三角/櫛GND複数種類ある(下記)

GND の記号は区別すること

記号意味
三角形(塗りつぶし)一般的な GND(信号 GND)
三本線(階段状)シャーシ GND / アース
白抜き三角アナロググランド (AGND) など、別系統

AGND と DGND を分けている回路図は、意図がある.

「1 点で接続する」ことを意図している場合が多い(24 章)。 回路図で分かれているのに、基板でベタ一面にしてしまうという 実装ミスが実際に起きる。設計者に必ず確認すること。

9. この章のまとめ

ポイント内容
電圧必ず 2 点間の量。「3.3 V」は「GND に対して」の省略
電流必ずループを作る。リターンパスが EMC と信号品質を決める
オームの法則\(V = IR\)。電力は \(P = I^2 R\) の形が実務で最も使う
分圧\(V_{out} = V_{in} R_2/(R_1+R_2)\)。出力インピーダンスは \(R_1 \parallel R_2\)
ADC 直結ソースインピーダンスが高いと誤差になる。数 kΩ 以下かバッファ
KCL / KVL電荷は溜まらない/一周すれば電位は戻る
E 系列対数的に配置。E24 は隣どうし約 10 % 違い
抵抗の実際温度係数・定格電力・最大電圧。比の精度は絶対精度より良い
GND 記号複数種類ある。分けてあるのは意図がある

次章では、抵抗以外の受動素子——コンデンサとインダクタを扱う。 そして「理想の素子は存在しない」という、実務で最も重要な事実を見る。