Chapter 02
受動素子の実際 — 理想の R・L・C は存在しない
この章がなぜ必要なのか——実務のトラブルの大半は、ここから来る.
「100 nF のコンデンサを入れたのにノイズが取れない」 「10 µF なのに実効容量が 2 µF しかない」 「フェライトビーズを入れたら共振して悪化した」
これらはすべて、理想素子として考えたことが原因である。
実際のコンデンサは抵抗とインダクタも持っている。 高い周波数では、コンデンサがインダクタとして振る舞う。 この事実を知らないと、デカップリング(16 章)もフィルタ(03 章)も設計できない。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). バイアス(01 章 4 節)
1. コンデンサの基本
電流と電圧の関係
電圧が変化するときだけ電流が流れる。 変化しなければ電流はゼロ(=直流を通さない)。
逆に解くと
電流を積分したものが電圧になる。 これがフィルタ(03 章)と積分回路の基礎である。
インピーダンス
正弦波に対しては、複素インピーダンスで扱える。
周波数が高いほどインピーダンスが下がる。
| 容量 | 1 kHz | 100 kHz | 10 MHz |
|---|---|---|---|
| 100 pF | 1.6 MΩ | 16 kΩ | 159 Ω |
| 100 nF | 1.6 kΩ | 16 Ω | 0.16 Ω |
| 10 µF | 16 Ω | 0.16 Ω | 1.6 mΩ |
——という計算は、理想コンデンサでのみ成り立つ。 実際は次節で見るように違う。
蓄えるエネルギー
電圧の 2 乗で効く。 電圧が 2 倍ならエネルギーは 4 倍。
2. 実際のコンデンサ — ESR と ESL
実際のコンデンサは、こういう等価回路になる。
| 成分 | 名前 | 由来 | 効果 |
|---|---|---|---|
| ESR | 等価直列抵抗 | 電極・誘電体の損失 | 発熱、リプル除去性能の低下 |
| ESL | 等価直列インダクタンス | 電極とリードの形状 | 高周波でインピーダンスが上がる |
| \(R_{leak}\) | 漏れ抵抗 | 誘電体の絶縁不良 | 直流の漏れ電流 |
自己共振周波数 (SRF)
ESL と C が直列共振する周波数がある。
これが最も重要な事実である.
\(f_{SRF}\) より上では、コンデンサはインダクタとして振る舞う。
「10 µF を入れれば 100 MHz でも低インピーダンス」——間違い。 大容量品ほど ESL が大きく、SRF が低い。
代表的な SRF の目安(1608 サイズ・MLCC)
| 容量 | SRF の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 10 pF | 数 GHz | 高周波向け |
| 100 pF | 約 1 GHz | |
| 1 nF | 約 300 MHz | |
| 100 nF | 約 20〜30 MHz | デカップリングの定番 |
| 1 µF | 約 5〜10 MHz | |
| 10 µF | 約 2〜4 MHz |
大容量ほど SRF が低い。 だから 16 章で見るとおり、 容量の違うコンデンサを並列に置くという設計になる。
コンデンサのインピーダンスを見る
容量・ESR・ESL を変えて、周波数特性がどう変わるかを確かめられる。
3. コンデンサの種類
| 種類 | 容量範囲 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|
| MLCC(積層セラミック) | 0.5 pF〜100 µF | 小型・安い・低 ESL。DC バイアス特性が大問題 | ほぼ全用途 |
| 電解(アルミ) | 1 µF〜数万 µF | 大容量・安い。ESR 大・寿命あり | 電源の平滑 |
| 導電性高分子(ポリマー) | 数 µF〜数百 µF | 低 ESR・長寿命 | スイッチング電源の出力 |
| タンタル | 1〜数百 µF | 小型・安定。ショートモード故障 | 小型機器 |
| フィルム | 数 nF〜数十 µF | 高精度・低損失・自己修復 | アナログ・高電圧 |
MLCC の誘電体クラス
ここが最大の落とし穴である。
| クラス | 記号 | 容量精度 | 温度特性 | DC バイアス | 用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| Class 1 | C0G / NP0 | ±0.5 % 程度 | ±30 ppm/°C | ほぼなし | 発振・フィルタ・タイミング |
| Class 2 | X7R / X5R | ±10〜20 % | ±15 % | 大きい | デカップリング・バイパス |
| Class 2 | Y5V / Z5U | ±20〜80 % | −82 % など | 極めて大きい | 使わない方がよい |
DC バイアス特性 — 「10 µF が 2 µF になる」
Class 2 の MLCC は、直流電圧をかけると容量が減る。
| 例 | 内容 |
|---|---|
| 10 µF / 6.3 V / X5R / 1608 に 5 V 印加 | 実効容量が 2〜3 µF まで落ちることがある |
| 同じ容量でも大きいサイズ | 低下が緩やか |
| 定格電圧が高い品種 | 低下が緩やか |
これは「不良」ではなく、Class 2 誘電体の物性である.
対策:
- 定格電圧を使用電圧の 2〜3 倍以上にする
- サイズを 1 段大きくする
- メーカーのシミュレーションツール(実測ベースの S パラメータを提供している)で確認する
- 必要ならタイミング用途には C0G を使う
「10 µF を入れたのに電源リプルが取れない」の原因は、 実際には 2 µF しかなかった、というケースが非常に多い。
その他の Class 2 の癖
| 現象 | 内容 |
|---|---|
| 経時変化(エージング) | Class 2 は時間とともに容量が減る(数 % / 10 年の対数則) |
| 温度特性 | X7R は −55〜+125 °C で ±15 %。X5R は −55〜+85 °C |
| 圧電効果(鳴き) | 機械的に振動する。可聴音が出ることがある |
| 機械応力でのクラック | 基板のたわみで割れる。ショート故障になる |
MLCC のクラックによるショートは、実際の火災事故の原因になっている.
対策:
- 基板の端やコネクタ近く(たわみやすい場所)に大型 MLCC を置かない
- ソフトターミネーション品(電極に樹脂層を持つ)を使う
- 分割用の V カット近くを避ける
- 電源ラインでは直列に 2 個にする設計もある(片方が壊れても短絡しない)
4. インダクタの基本
電流と電圧の関係
電流が変化するときだけ電圧が出る。 コンデンサと双対の関係にある。
インピーダンス
周波数が高いほどインピーダンスが上がる。
蓄えるエネルギー
電流の 2 乗で効く。 これがスイッチングレギュレータ(15 章)の原理である。
インダクタで最も重要な性質: 電流は急に変えられない.
\(v = L \, di/dt\) なので、電流を急に切ろうとすると \(di/dt\) が巨大になり、電圧が跳ね上がる。
リレーやソレノイドの駆動でフライバックダイオードが必要なのはこのため(04 章)。 ダイオードがないと、トランジスタが過電圧で壊れる。
5. 実際のインダクタ
| 成分 | 名前 | 効果 |
|---|---|---|
| DCR | 直流抵抗 | 損失・発熱。効率に直結 |
| \(C_p\) | 巻線間容量 | 高周波でコンデンサとして振る舞う |
| 飽和電流 (Isat) | — | これを超えるとインダクタンスが激減する |
飽和 — インダクタ最大の落とし穴
飽和すると、何が起きるか.
スイッチングレギュレータ(15 章)では——
- インダクタンスが下がる
- \(di/dt = v/L\) が大きくなり、電流がさらに急増する
- さらに飽和する(正帰還)
- 電流が制御不能になり、MOSFET が壊れる
突入電流や過渡状態で一瞬でも Isat を超えると危険である。 定常電流だけでなく、リプルのピーク値と起動時の突入で確認すること。
飽和電流の定義に注意
| 定義 | 内容 |
|---|---|
| Isat | インダクタンスが公称値から一定割合(10〜30 %)低下する電流 |
| Irms(温度定格) | 温度上昇が規定値(40 °C など)になる電流 |
この 2 つは別の値であり、どちらか小さい方が実質的な上限になる。 データシートでどちらの定義かを必ず確認すること。
インダクタの種類
| 種類 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| 巻線型(シールド) | 低 DCR、高 Isat、漏れ磁束が少ない | 電源 |
| 巻線型(非シールド) | 安い。漏れ磁束が周囲に影響する | 低ノイズ要求のない電源 |
| 積層型 | 小型・安い。Isat が小さい | 信号線のフィルタ |
| 薄膜型 | 高精度・高周波 | RF |
| フェライトビーズ | 高周波で抵抗として働く(後述) | ノイズ対策 |
6. フェライトビーズ — 「抵抗」として使う部品
フェライトビーズは、インダクタではなく「周波数依存の抵抗」として扱うのが正しい。
データシートの「100 Ω @ 100 MHz」は、その周波数でのインピーダンスの大きさである。
フェライトビーズの落とし穴: 共振.
ビーズはインダクタ成分を持つ。その先にデカップリングコンデンサがあると——
ビーズと後段のコンデンサは LC 共振を作る。「ビーズを入れたらノイズが増えた」はこれが原因 LC の直列共振回路になる。 共振周波数でインピーダンスが跳ね上がり、 かえってノイズが増える(アンチレゾナンス)。
対策:
- ビーズのR 成分が十分大きい周波数帯で使う
- ダンピング抵抗(数 Ω)を入れる
- コンデンサをESR のある品種にする
- そもそも必要かどうかを実測で確かめる
「とりあえずビーズを入れる」は、しばしば逆効果である。
7. 素子の周波数特性まとめ
3 つの素子のインピーダンスを比べる
周波数を変えて、R・L・C(寄生成分込み)のインピーダンスを比較できる。
| 素子 | 低周波 | 高周波 |
|---|---|---|
| 抵抗 | \(R\) | 寄生 L で上がる(巻線型は特に) |
| コンデンサ | \(1/(2\pi f C)\) で下がる | SRF を超えると ESL で上がる |
| インダクタ | \(2\pi f L\) で上がる | SRF を超えると \(C_p\) で下がる |
「高い周波数では、すべての素子が別のものになる」.
これが実装(23 章)で最も重要な事実である。 数十 MHz を超えたら、部品は理想素子として振る舞わない。
対策は 1 つ——寄生成分を小さくする。 つまり 配線を短く、ループを小さく、パッケージを小さくする。 16 章と 23 章で、これを具体的な設計ルールに落とす。
8. 部品の型番の読み方(MLCC の例)
容量コードは抵抗と同じ「有効数字 2 桁 + 10 の冪」で、単位は pF。
| コード | 容量 |
|---|---|
104 | \(10 \times 10^4\) pF = 100 nF |
105 | \(10 \times 10^5\) pF = 1 µF |
106 | \(10 \times 10^6\) pF = 10 µF |
220 | \(22 \times 10^0\) pF = 22 pF |
サイズの呼び方(混乱の元)
| メトリック(mm) | インチ | 実寸 |
|---|---|---|
| 1005 | 0402 | 1.0 × 0.5 mm |
| 1608 | 0603 | 1.6 × 0.8 mm |
| 2012 | 0805 | 2.0 × 1.25 mm |
| 3216 | 1206 | 3.2 × 1.6 mm |
「0603」が指すものが 2 通りあるので、必ず単位を確認すること.
メトリックの 0603 は 0.6 × 0.3 mm(インチの 0201 相当)。 インチの 0603 は 1.6 × 0.8 mm(メトリックの 1608)。 長さで約 2.7 倍、面積で約 7 倍違う。 部品表と実装で食い違うと大事故になる。
9. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| コンデンサ | \(i = C\,dv/dt\)、\(Z = 1/(2\pi f C)\)、\(E = \frac12 CV^2\) |
| ESR / ESL | 実際のコンデンサは抵抗とインダクタも持つ |
| SRF | これを超えるとコンデンサはインダクタになる。100 nF で約 20〜30 MHz |
| MLCC のクラス | C0G/NP0(安定・タイミング用)と X7R/X5R(デカップリング用) |
| DC バイアス | Class 2 は電圧をかけると容量が激減する。10 µF が 2 µF になる |
| MLCC のクラック | 基板のたわみで割れ、ショート故障になる。配置と品種で対策 |
| インダクタ | \(v = L\,di/dt\)、\(E = \frac12 LI^2\)。電流は急に変えられない |
| 飽和 | Isat を超えるとインダクタンスが激減し、暴走する。リプルのピークで確認 |
| フェライトビーズ | インダクタではなく周波数依存の抵抗。共振に注意 |
| 高周波 | すべての素子が別のものになる。対策は配線を短くループを小さく |
| 型番 | 容量コードは pF 単位。サイズ表記はメトリックとインチで混乱する |
次章では、これらの素子を組み合わせたときの振る舞い—— 過渡応答とフィルタを扱う。