Chapter 19
接続と電源の実務 — 音が痩せる・ノイズが乗るの正体
この章のゴール.
ハイインピーダンスという概念から「長いケーブルで高域が落ちる」「バッファで戻る」を説明でき、 トゥルーバイパス/バッファの使い分け、エフェクトループ、電源のノイズ対策まで、 ボード構築の判断を理由付きでできるようになること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 並列(01 章 4 節)、歪み系(01 章 2 節)、空間系(01 章 2 節)、フィルタ(02 章 5 節)、ヘッドルーム(03 章 2 節)、ファズ(05 章 1 節)、ベース(06 章 6 節)、音量(10 章 1 節)、Mix(11 章 1 節)、音色(14 章 1 節)、ディレイ(16 章 1 節)、デジタル(16 章 2 節)、リバーブ(17 章 1 節)
1. ハイインピーダンスと高域落ち
ギターのピックアップはハイインピーダンス(出力の内部抵抗が大きい、数百 kΩ)な信号源である。 ケーブルには 1 m あたり約 100 pF の静電容量があり、ピックアップの内部抵抗とケーブル容量がローパスフィルタを形成する(08 章)。
R = 250 kΩ、10 m ケーブル(1000 pF)なら fc ≈ 640 Hz──実際にはピックアップの共振と絡んでもう少し上だが、ケーブルが長いほど高域が確実に落ちる。「長いシールドで音が死ぬ」は比喩ではなく RC フィルタの物理である。
2. バッファ — 低インピーダンスに変換する
バッファ(buffer)は、増幅率 1 倍で出力インピーダンスだけを低くする回路である。 バッファの後ろではケーブル容量の影響がほぼ消え、何 m 引き回しても高域が落ちない。
- BOSS 等の電子スイッチ式ペダルはオフでもバッファを通る(バッファードバイパス)
- トゥルーバイパスはオフ時に回路を完全に切り離す——ペダルの音色は消えるが、長いケーブルの高域落ちは戻ってくる
つまり「トゥルーバイパスが常に高音質」は誤解で、正解はチェーンのどこかに 1 個、質の良いバッファである。
| 状況 | 指針 |
|---|---|
| ペダル多数 + 長いケーブル | 先頭付近にバッファ(またはバッファードバイパス機 1 台)を置く |
| ファズ(05 章)・ヴィンテージワウ | バッファより前に置く(回路がハイインピーダンス前提。バッファが前にあると音が変わる) |
| 数台 + 短いケーブル | どちらでも聞き分けにくい |
定番の並び: ギター → ファズ/ワウ → バッファ → その他 →(長い引き回し)→ アンプ。
3. エフェクトループ — アンプの歪みの後ろに入れる
アンプで歪ませる場合、ペダルを input に挿すと空間系がアンプの歪みの前に来てしまい、01 章の定石(歪みの後ろにディレイ/リバーブ)が守れない。 エフェクトループ(センド/リターン)は、アンプの「プリ(歪み)とパワー(音量)の間」に外部エフェクトを挟む端子である。
- input へ: ワウ、コンプ、歪み、(ファズ)
- ループへ: ディレイ、リバーブ、モジュレーション、EQ(プリ後の補正)
- ループにはラインレベル/シリーズ/パラレルの違いがある。パラレルループは Mix 100 %(キルドライ)設定にしないと原音が二重になる
4. 電源 — ノイズの半分はここから
- 電圧と極性: ペダルの多数派は 9V・センターマイナス。18V 対応機は電圧を上げるとヘッドルームが広がる(03 章——クリーン系・コンプで音が変わる理由)。対応外の 18V は故障するので必ず確認
- 電流: デジタル機(リバーブ・マルチ)は 200〜500 mA 食う。容量不足は音切れ・ノイズの元
- アイソレート電源: 各出力がトランスで絶縁された電源。デイジーチェーン(1 出力から分岐)はグラウンドループと相互ノイズの温床で、デジタル機混在なら特に、アイソレートが最も効くノイズ対策である(07 章)
- スイッチングノイズ: 安価なアダプタの高周波ノイズは「ピー」「ジー」として乗る。歪み系の前段ほど増幅されて目立つ
5. ステレオ・ミキサー・並列ボード
- モジュレーション以降をステレオで組むと空間が別世界になる。ただしモノ再生での崩れ(10 章)と、会場が実質モノ PA であることは織り込む
- 並列ミキサーボード: 信号を分岐し、歪み系とクリーンを並走させて混ぜる(ベースの定番、01 章)。位相反転スイッチ(混ぜたとき打ち消しが起きたら裏返す)があると安全
- スイッチャー: ループ切り替え機でペダルの組み合わせをプリセット化。トゥルーバイパスの塊としても機能する
6. 音作りの勘どころ(ボード設計チェック)
- ボード完成後、ギター直アンプと A/B 比較する。バイパス時の音が痩せていたらバッファの位置と質を見直す
- ノイズが出たら「全ペダルの電源を 1 つずつ抜く」で犯人を特定。たいてい電源系
- 電圧サグ対応ファズ・9V 専用機・18V 昇圧の電圧マップを紙に書く。事故防止
- ケーブル総延長を意識する。ボード内パッチも合算で 5 m を超えることは珍しくない
- 「音が細い」と感じたら、エフェクトを足す前に接続と電源を疑う。この章の内容が原因の 8 割
7. 手を動かす
接続を設計する
この章のポイント
- ギターはハイインピーダンス。ケーブル容量と RC フィルタを作り、長いほど高域が落ちる
- バッファ 1 個が正解。トゥルーバイパス至上主義は誤解。ただしファズ/ワウはバッファより前
- エフェクトループ = アンプの歪みとパワーの間。空間系はここへ(定石の維持)
- 電源は電圧・極性・電流・アイソレート。ノイズの半分は電源とグラウンド
- 「音が細い」はエフェクトでなく接続と電源をまず疑う