Chapter 14
ロータリースピーカーとユニヴァイブ — 回る音の分解
この章のゴール.
レスリースピーカーの音が「ドップラー(音程)+ 音量 + 音色 + 定位の同時変調」であることを理解し、 それを電気で近似したユニヴァイブ、シミュレータの構成を説明できるようになること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 直列(01 章 4 節)、ノッチ(02 章 5 節)、フィルタ(02 章 5 節)、LFO(10 章 1 節)、オートパン(10 章 4 節)、トレモロ(10 章 2 節)、ビブラート(10 章 3 節)、コーラス(11 章 1 節)、フェイザー(13 章 1 節)
1. レスリースピーカー — 物理で作るモジュレーション
ロータリースピーカー(レスリー、Leslie)は、ハモンドオルガン用に作られた「スピーカー自体を回す」装置である。
- 高域: 固定ドライバの前でホーンが回転する
- 低域: ウーファーの前で音を導くドラム(バッフル)が回転する
- 速度は 2 段: Chorale(遅い、約 0.7 回転/秒)と Tremolo(速い、約 6.7 回転/秒)。切り替えの加減速がゆっくりなのも音の一部
回ると何が起きるか——1 回転の間に、リスナーに対して音源が近づき・遠ざかり・向きを変える。その結果:
| 変調 | 原因 |
|---|---|
| 音程(ビブラート) | 近づく/遠ざかるドップラー効果(10 章) |
| 音量(トレモロ) | 距離と向きの変化 |
| 音色(フィルタ) | ホーンの指向性——正面を向いた瞬間だけ高域が届く |
| 定位(パン) | 部屋の反射も含めて音の来る方向が回る |
| 高低で別の回転 | ホーンとドラムは別モーターで別速度。位相もずれる |
つまりレスリーの音は「トレモロ + ビブラート + オートワウ + オートパン」を物理現象として同時に・相関して起こしたものである。単品エフェクトを直列に並べても似ないのは、この相関(1 つの回転から全部が導かれる)が再現できないからである。
2. ユニヴァイブ — ランプと光の近似
ユニヴァイブ(Uni-Vibe、1968)は、レスリーを持ち歩けないギタリストのために作られた電気的近似である。
- 実体は 4 段フェイザー(13 章)だが、LFO は電球 1 個を明滅させ、4 つの光抵抗で受ける
- 電球の応答(明るくなるのは速く、暗くなるのは余熱でゆっくり)が、LFO を非対称に歪ませる
- 4 段のコンデンサ値がわざとバラバラで、ノッチの動きが不均一
結果は「フェイザーとコーラスの中間の、脈打つようなうねり」。レスリーには似ていないが、別の名機になった。 ジミ・ヘンドリックス(Machine Gun)、ピンク・フロイド(Breathe)、ロベン・フォード。 現行機はランプ + 光抵抗を再現したフォトセル系と、モデリング系に分かれる。
3. ロータリーシミュレータの構成
デジタルのロータリーシミュレータ(BOSS RT-20、Strymon Lex、Neo Ventilator)は、物理の分解をそのまま実装する。
- クロスオーバーでホーン帯域とドラム帯域に分割
- 各帯域に ドップラー(ピッチ変調)+ 振幅変調 + フィルタ変調 を、回転位相に相関させて掛ける
- 左右のマイク位置を想定したステレオ合成(部屋の反射も)
- 加減速の慣性(ホーンは軽く速く、ドラムは重くゆっくり立ち上がる)を再現
「Slow/Fast の切り替え時、速度がゆっくり移り変わる」再現があるかが、シミュレータの完成度の分かりやすい指標である。
4. 音作りの勘どころ
- 切り替えこそ演奏: Chorale ⇄ Tremolo の加減速の途中が最も音楽的。フレーズの盛り上がりで Fast へ、静まる直前に Slow へ
- ギターで使うならクランチまで。深歪み + ロータリーは回転が濁る(コーラスと同じ理屈、11 章)
- ユニヴァイブは Rate 遅め + 歪みの前が Hendrix 流。脈のタイミングを曲のテンポの付点に合わせると酔える
- オルガン風を狙うなら「コンプ(06 章)で平らに → ロータリー → 軽いオーバードライブ」。音量が平らだと持続音がオルガンに近づく
- ステレオで鳴らせる環境なら必ずステレオで。モノでは魅力が半減する
5. 手を動かす
回転を分解する
この章のポイント
- レスリー = 回転が生む音程・音量・音色・定位の相関した同時変調。単品の直列では似ない
- Chorale/Tremolo の 2 速と加減速の慣性も音の一部
- ユニヴァイブ = 電球 + 光抵抗の不均一 4 段フェイザー。レスリーには似なかったが名機になった
- シミュレータは帯域分割 + 各変調の相関 + 慣性 + ステレオ合成で分解を再実装
- 切り替えの途中が最も音楽的