Chapter 13
フェイザー — 位相だけを回して谷を作る
この章のゴール.
フェイザーが遅延でなくオールパスフィルタ(音量を変えず位相だけ回すフィルタ)で作られること、 段数(4/6/8 ステージ)がノッチの数になることを理解し、 フランジャーとの音の違いを仕組みから説明できるようになること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). ノッチ(02 章 5 節)、フィルタ(02 章 5 節)、常時オン(03 章 7 節)、LED(04 章 4 節)、Depth(10 章 2 節)、LFO(10 章 1 節)、Rate(10 章 2 節)、音量(10 章 1 節)、ジェット(12 章 5 節)、フィードバック(12 章 1 節)、フランジャー(12 章 1 節)
1. オールパスフィルタという部品
オールパスフィルタ(all-pass filter)は、すべての周波数を同じ音量で通すが、位相だけを周波数によって回すフィルタである。 単体で聞いても音は変わらない(位相は単体では聞こえない、02 章)。 だが原音と混ぜると、位相が 180° 回った周波数で打ち消しが起き、ノッチが生まれる。
フェイザー(phaser / phase shifter)の構造:
- オールパスフィルタを数段直列にする(4/6/8/12 ステージ)
- LFO で各段の回る周波数を揺らす
- 原音と混ぜる
ノッチの数は段数の半分(4 ステージ → 2 個、8 → 4 個)。 フランジャーの櫛(何十本・等間隔)に対し、フェイザーは数本だけ・不等間隔——だからジェットではなく「うねり・シュワー」という有機的な質感になる。
2. 回路 — 何で位相を揺らすか
アナログフェイザーは、オールパス段の中の可変抵抗を LFO で動かす。その素子が機種の個性である。
| 素子 | 代表 | 音 |
|---|---|---|
| FET | MXR Phase 90 | 滑らかで速い。オレンジの定番 |
| OTA | Small Stone | 太いうねり |
| フォトカプラ(LED + 光抵抗) | Mu-Tron Bi-Phase | 応答が緩く有機的(06 章のオプトと同じ理屈) |
Phase 90(4 ステージ・ツマミ 1 個)とSmall Stone、そして「シュワシュワ」の代名詞 Phase 100 / Bi-Phase が古典。 フィードバック(Resonance)を持つ機種は、フランジャー同様に山が尖って主張が強くなる。
3. 使われ方の定番
- ロック: Van Halen「Eruption」の Phase 90(速めの Rate、歪みの前に置いて位相の揺れごと歪ませるのが EVH 流——定石の例外)
- ファンク: クリーンのカッティングに 4 ステージ薄め
- キーボード: Rhodes + フェイザーは 70s の代名詞(Small Stone / Phase 100)
- シンセ/アンビエント: 遅い Rate の 8〜12 ステージでパッドを揺らす
4. ユニヴァイブへの伏線
フェイザーの親戚ユニヴァイブ(Uni-Vibe)は、4 段の位相回路をランプ + 光抵抗で揺らすが、各段の設計値をわざとバラバラにしてある。 これが「回転スピーカーの揺らぎ」を狙った不均一なうねりを生む——14 章(ロータリー)で詳しく扱う。
5. 音作りの勘どころ
- Rate 1 択の機種(Phase 90)は Rate がすべて: カッティングは 8 分に嵌まる速さ、バラードは 0.3 Hz 前後のゆったり
- 歪みとの順番で 2 つの音: フェイザー→歪み(EVH。揺れが歪みに焼き込まれて荒い)、歪み→フェイザー(定石。澄んだシュワー)。両方試す価値が最も高いモジュレーション
- 段数は「主張の濃さ」: 4 段 = さりげない、8 段以上 = 主役級のうねり
- 常時オンで使うなら Depth/Resonance 控えめの 4 段。ノッチが動きすぎると音程感が痩せる
6. 手を動かす
ノッチの数と動き
この章のポイント
- フェイザー = オールパスフィルタ数段 + 原音ミックス。位相 180° の周波数にノッチ
- ノッチは段数の半分・不等間隔。フランジャー(多数・等間隔)との質感の違いはここ
- 揺らす素子(FET / OTA / フォトカプラ)が機種の個性
- 歪みとの前後で 2 つの音。EVH は前、定石は後
- 段数 = 主張の濃さ。ユニヴァイブは「わざと不均一」な親戚(14 章へ)