Chapter 06
コンプレッサー — 音量の時間変化を作り変える
この章のゴール.
コンプレッサーの 5 つのパラメータ(スレッショルド・レシオ・アタック・リリース・メイクアップ)が エンベロープ(02 章)のどこを操作するかを図で説明でき、 「パコパコにする/自然に揃える/サステインを伸ばす」を意図して作り分けられるようになること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 並列(01 章 4 節)、エンベロープ(02 章 4 節)、サステイン(02 章 4 節)、LED(04 章 4 節)
1. コンプレッサーは自動音量ツマミである
コンプレッサー(compressor)は、大きい音を自動で下げる装置である。 中身は「音量を検出する回路(エンベロープフォロワ)」が「音量を変える素子(VCA など)」を操作する自動化されたフェーダーであり、 結果として音量差が圧縮され、全体を持ち上げれば「小さい音が持ち上がった」ようにも聞こえる。
2. 5 つのパラメータ
| パラメータ | 意味 | 効果 |
|---|---|---|
| スレッショルド(threshold) | ここより大きい音だけ圧縮する境目 | 低くするほど広範囲が圧縮される |
| レシオ(ratio) | 超えた分を何分の 1 に縮めるか。4:1 なら超過 8 dB → 2 dB に | 大きいほど強い。∞:1 はリミッター(それ以上大きくさせない) |
| アタック(attack) | 大きい音が来てから圧縮が効き始めるまでの時間 | 遅い(20 ms〜)とピッキングの「ツン」が通り抜けて残る。速いと頭から潰れる |
| リリース(release) | 音が小さくなってから圧縮をやめるまでの時間 | 速いと元気だがパンピング(後述)、遅いと滑らか |
| メイクアップゲイン(level) | 圧縮で下がった分を持ち上げる | 「音が太くなった」の多くはこれによる錯覚込み |
アタックとリリースがエンベロープの彫刻刀である。
- アタック遅め: 頭のアタックを残し、その後を潰す → ピッキングが際立つ「パコパコ」カントリー/ファンクの音
- アタック速め: 頭から潰す → 粒が完全に揃うが、ノペッとする
- リリースをフレーズのテンポに合わせると、圧縮の戻りが呼吸のように聞こえる
3. サステインが伸びる仕組み
コンプの効果でよく言われる「伸びる」は、こういうことである。
- 弾いた瞬間の大きな音を圧縮で下げる
- メイクアップゲインで全体を持ち上げる
- すると、減衰していく後半(もともと小さい音)が持ち上げられて、聞こえる時間が長くなる
つまり「音を伸ばして」いるのではなく「消え際を持ち上げて」いる。ノイズも一緒に持ち上がるので、深いコンプはノイズとの戦いになる(07 章のゲート)。
4. 検出と制御の方式 — 質感の出どころ
音量を下げる素子の違いが、各機種の質感の違いになる。
| 方式 | 素子 | 特徴 | 代表 |
|---|---|---|---|
| OTA | オペレーショナル・トランスコンダクタンス・アンプ | 速く効いてパコッとした質感。ペダルコンプの主流 | MXR Dyna Comp、Ross |
| オプティカル | LED/ランプ + 光抵抗(フォトカプラ) | 光抵抗の応答が遅く滑らか。自然で音楽的 | LA-2A、ペダルでは Diamond 系 |
| FET | 電界効果トランジスタ | 極速アタック、攻撃的 | 1176(スタジオの定番) |
| VCA | 電圧制御アンプ IC | 正確・クリーン・設定どおり | スタジオ系、ベースコンプ |
| 真空管(バリミュー) | 真空管の増幅率を変える | 遅く濃厚 | Fairchild 670 |
「Dyna Comp のパコパコ」「オプトの自然さ」は、検出/制御素子の応答速度のカーブの違いがそのまま聞こえているのである。
5. 派生と応用
- リミッター: レシオ∞。上限を作る安全装置
- パラレルコンプレッション: 深く潰した音を原音と混ぜる(01 章の並列)。アタックの生々しさと持ち上がった消え際を両取りできる。Blend ツマミ付きコンプはこれを内蔵している
- サイドチェイン: 検出回路に別の信号を入れる。キックが鳴った瞬間だけベースが下がる「ダッキング」(EDM の脈動)はこれ。検出経路に EQ を入れて「低域に反応しすぎない」ようにするのも同じ思想
- マルチバンドコンプ: 帯域を分けて別々に圧縮。ベース・マスタリング用
- サステイナー系: ギター用「サステイナー」と呼ばれるペダルの実体はほぼ深めのコンプ
6. 音作りの勘どころ
- カッティング/カントリー: アタック遅め(20〜30 ms)、レシオ 4:1〜6:1、リリース速め。「パコッ」を残す定番
- クリーンアルペジオの粒揃え: アタック速め、レシオ 2:1〜3:1、浅く(下がっても 3 dB 程度)。「効いているか分からないが、切ると寂しい」が正解の深さ
- ベース: レシオ 3:1〜4:1、アタック中くらい。ライン録りの定番。ピック弾きはアタック遅めでアタック音を活かす
- ソロのサステイン: レシオ高め + メイクアップ多め。ノイズが上がるので、弾かないときの無音管理(ゲート・手元ボリューム)とセットで
- パンピングに注意: リリースが速すぎると、音量が波打って「息継ぎ」が聞こえる。気になったらリリースを遅く
- 歪みの前か後か: 前(定石)はピッキングを揃えてから歪ませる = 歪みの深さが安定。後は歪みのノイズごと持ち上がるので注意。深歪みは自身が強いコンプ効果を持つので、コンプ不要のことも多い
7. 手を動かす
コンプの効きを見る
この章のポイント
- コンプ = 自動音量ツマミ。スレッショルド超過分をレシオで縮め、メイクアップで持ち上げる
- アタック/リリースはエンベロープの彫刻刀。アタック遅め = 頭を残す
- 「伸びる」= 消え際が持ち上がる。ノイズも一緒に上がる
- 質感の違いは制御素子(OTA / オプト / FET / VCA)の応答カーブの違い
- パラレル・サイドチェイン・マルチバンドは「分けて・別の信号で・帯域ごとに」の応用