Chapter 10
トレモロとビブラート — LFO という心臓
この章のゴール.
モジュレーション系の心臓部 LFO を理解し、 「音量を揺らす = トレモロ」「音程を揺らす = ビブラート」を出発点に、 以降の章(コーラス・フランジャー・フェイザー・ロータリー)を「LFO が何を揺らすか」の一覧として見られるようになること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). モジュレーション系(01 章 2 節)、フィルタ(02 章 5 節)、常時オン(03 章 7 節)
1. LFO — 聞こえない周波数で揺らす
LFO(Low Frequency Oscillator、低周波発振器)は、音としては聞こえない0.1〜10 Hz 程度のゆっくりした周期信号を作る回路である。 この信号で音の何かのパラメータを動かすのがモジュレーション系エフェクトの共通構造で、章をまたぐ見取り図はこうなる。
| LFO が揺らすもの | エフェクト | 章 |
|---|---|---|
| 音量 | トレモロ | 本章 |
| 音程(遅延時間) | ビブラート | 本章 |
| 短い遅延(原音と混ぜる) | コーラス / フランジャー | 11・12 |
| 位相(原音と混ぜる) | フェイザー / ユニヴァイブ | 13・14 |
| フィルタのカットオフ | オートワウ | 9 |
| 定位(左右) | オートパン | 本章 |
LFO の波形も音の性格を決める。
- 正弦波/三角波: 滑らかな揺れ
- 矩形波: パキパキ切り替わる(スライサー的、後述)
- のこぎり波: 片方向に流れる揺れ
- ランダム(サンプル&ホールド): 予測できない揺れ(09 章)
2. トレモロ — 音量の揺れ
トレモロ(tremolo)は、LFO で音量(ゲイン)を揺らす。最古のビルトインエフェクト(1950年代のアンプ内蔵)で、Rate と Depth の 2 ツマミが基本。
- Rate: 揺れの速さ。曲のテンポに合わせる(後述)
- Depth: 揺れの深さ。100 % なら音が完全に途切れる
- 波形: 正弦波はサーフ/ヴィンテージの「うねり」、矩形波はスライサー(音を機械的に刻む。Boss SL-20 的)に近づく
アンプ内蔵トレモロには 2 流儀ある。
- バイアストレモロ: 出力管のバイアス(動作点)を LFO で揺らす。音量だけでなく歪みも微妙に揺れる、柔らかい「息づき」
- オプティカルトレモロ: LFO で光らせたランプ + 光抵抗で音量を揺らす(06 章のオプトコンプと同じ部品)。Fender 系の「ドゥクドゥク」した独特のカーブ
Fender アンプの「Vibrato」表記はトレモロである.
歴史的な誤記がそのまま定着した。逆にギターの「トレモロアーム」は音程を揺らすのでビブラートである。 用語のねじれとして有名だが、音量 = トレモロ、音程 = ビブラートが本来の定義。
3. ビブラート — 音程の揺れ
ビブラート(vibrato)は、LFO で音程を揺らす。弦楽器の指の揺れ、歌の声の揺れの機械版である。
電気的には「音程を直接変える」のは難しいので、実装は遅延時間の変調による。
短い遅延(数 ms)を LFO で伸び縮みさせると、読み出し速度が揺れて音程が揺れる。ビブラート = 揺れる遅延線を 100 % ウェットで聞く——これが 11 章のコーラス(同じものを原音と混ぜる)への伏線である。
4. オートパン — 定位の揺れ
ステレオ 2 チャンネルの音量を逆相の LFO で揺らすと、音が左右を往復する(オートパン)。 トレモロのステレオ版であり、モノで聞くと(左右が足されて)揺れが消える——ステレオエフェクト共通の注意点。
5. 音作りの勘どころ
- Rate はテンポに合わせる: 揺れが 8 分・付点 8 分・3 連のどれかに合うと音楽に嵌まる。BPM120 なら 8 分 = 4 Hz、4 分 = 2 Hz。タップテンポ付きが便利
- Depth は「揺れている」と気づかれる寸前が上品(常時オンの場合)。演出として使うなら 100 % で
- 矩形波 + 深め + テンポ同期 = スライサー。コードを白玉で弾くだけでシーケンスフレーズになる
- トレモロ + リバーブ(アンプ順: リバーブ → トレモロ)は残響ごと揺れるヴィンテージの質感。ペダルボードで再現するならディレイ/リバーブの後ろにトレモロを置く(定石の例外)
- ビブラートは常時オンには濃すぎる。ワンフレーズの演出(テープ風の揺れ、シューゲイザーのマイブラ奏法 = アームの代用)で
6. 手を動かす
LFO で音量を揺らす
この章のポイント
- LFO(0.1〜10 Hz)が何を揺らすかでモジュレーション系全部が整理できる
- 音量 = トレモロ、音程 = ビブラート(Fender の表記は歴史的ねじれ)
- ビブラートの実装は遅延時間の変調(ドップラー)——コーラス(11 章)の土台
- LFO の波形(正弦/三角/矩形/ランダム)も音色。矩形 + 深め = スライサー
- Rate はテンポに合わせるのが音楽に嵌める近道