Chapter 08
イコライザとトーン回路 — 倍音のバランスを設計する
この章のゴール.
フィルタの基本形(シェルビング・ピーキング・パス系)と、グラフィック/パラメトリック EQ の使い分けを理解し、 ギター/アンプのトーン回路が何をしているかを説明できるようになること。 「足す前に削る」という EQ の作法を身につけること。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). フィルタ系(01 章 2 節)、ノッチ(02 章 5 節)、ローパス(02 章 5 節)、倍音(02 章 2 節)、ヘッドルーム(03 章 2 節)、ベース(06 章 6 節)
1. EQ はフィルタの詰め合わせ
イコライザ(EQ、equalizer)は、周波数ごとに音量を上げ下げする装置で、中身は 02 章で名前だけ出したフィルタの組み合わせである。
| 型 | 形 | 使いどころ |
|---|---|---|
| シェルビング(棚型) | ある周波数から上(下)をまとめて持ち上げ/下げ | Bass / Treble ツマミの正体 |
| ピーキング(山型) | ある周波数を中心に山/谷を作る。幅は Q で決める | Mid ツマミ、パラメトリック EQ |
| ハイパス/ローパス | ある周波数から下(上)を切り落とす | 不要帯域の掃除 |
2. グラフィックとパラメトリック
- グラフィック EQ: 固定の帯域(ギター用は 100〜6.4k を 6〜10 バンド)にスライダーが並ぶ。見た目がそのまま周波数特性。素早い・再現しやすい
- パラメトリック EQ: 1 バンドごとに周波数・ブースト量・Q を自由に設定。「刺さる 3.2 kHz だけを狭く 4 dB 削る」のような精密作業ができる
- セミパラメトリック: 周波数とゲインのみ(Q 固定)。ベースプリに多い
グラフィックは「絵を描く」、パラメトリックは「狙撃する」。ライブの足元はグラフィック、ミックスの問題解決はパラメトリック、が典型的な住み分けである。
3. ギターのトーンとアンプのトーンスタック
3.1 ギター本体のトーンツマミ
正体はコンデンサ 1 個のローパスフィルタ。絞るほどカットオフが下がり高域が落ちる。 コンデンサの値(0.022 µF / 0.047 µF)で「絞ったときの暗さ」が変わる——改造の定番ポイント。
3.2 アンプの Bass / Mid / Treble
Fender/Marshall 系アンプのトーン回路(トーンスタック)は、3 つのツマミが相互に干渉する受動回路で、しかも全部 5 でもフラットではない(中域が数 dB 凹むのが標準)。
- 「Mid を上げる」は実質「Bass/Treble を下げる」に近い動きをする
- フラットが欲しければ Mid を上げ気味にする
- ペダルの EQ でアンプの凹みを埋める/深めるのが実戦的な使い方
4. EQ の作法 — 足す前に削る
- 削る方が安全: ブーストはヘッドルーム(03 章)を食い、位相も動く。問題の帯域を削る方が副作用が少ない。「こもる → 高域を足す」の前に「200〜400 Hz を削る」を試す
- 狭い Q で探して、広い Q で整える: パラメトリックで大きくブーストして周波数を掃くと、問題の帯域が「鳴く」場所で見つかる。見つけたら、カットに転じて Q を適度に緩める
- ±3 dB で足りることが多い: EQ は 12 dB も動かす道具ではない(それが要るなら他に原因がある)
- バンドの中で決める(01 章)。単体で「良い音」に整えた EQ はミックスで崩れる
5. EQ ペダルの置き場所
| 位置 | 役割 |
|---|---|
| 歪みの前 | 歪み方を変える(低域を削ってタイトに = TS の原理、中域を足してブースト) |
| 歪みの後 | 出来上がった歪みの音色補正(Big Muff のミッド復活、05 章) |
| チェーン最後段 | 全体のトーン仕上げ、アンプ・箱鳴りの補正 |
| ソロ用スイッチ | 中域 +3〜4 dB + Level 少しでソロが前に出る(音量だけ上げるより自然) |
同じ EQ でも歪みの前後で仕事が別物——01 章・03 章と同じ原理がここでも効く。
6. 重箱の隅 — 変わり種フィルタ
- ティルト EQ: 1 ツマミで「低域を上げつつ高域を下げる(またはその逆)」シーソー型。音の重心を 1 発で動かす
- プレゼンス/レゾナンス: アンプのパワー段の帰還をいじる特殊なトーン。スピーカーの共振域(低域)と超高域を制御
- バリトーン/C スイッチ: ノッチフィルタの切り替えで「鼻づまり」ポジションを作る(Gibson の Varitone)
- フィクスドワウ(ハーフワウ): ワウを途中で止めた音 = 強いピーキング EQ。ミッシェル・ガン・エレファント等のギラついた音
- アイソレータ: DJ 用の 3 バンド「完全カット」EQ。帯域ごとに音を消す演出
7. 音作りの勘どころ
- こもり取り: 250〜400 Hz を −3 dB。たいていの「なんかモコモコする」はここ
- 刺さり取り: 2.5〜4 kHz を狭い Q で −3〜6 dB
- 抜け: 800 Hz〜1.5 kHz を +2〜3 dB(歪みの後ろで)
- 宅録のアンプっぽさ: ライン録りの歪みに 5 kHz 以上を大胆にローパス(04 章のスピーカーの代役。キャビシミュがあればそちらで)
- ベースとの住み分け: ギターの 100 Hz 以下はバッサリ切っても、バンドの中では誰も気づかない。ベースの帯域が空いてアンサンブルが締まる
8. 手を動かす
イコライザで音色を彫る
この章のポイント
- EQ = フィルタの詰め合わせ。シェルビング・ピーキング・パス系の 3 形
- グラフィックは絵を描く、パラメトリック(周波数・量・Q)は狙撃
- ギターのトーンはコンデンサ 1 個のローパス。アンプのトーンスタックは干渉し、フラットにならない
- 作法は「足す前に削る」「±3 dB」「バンドの中で決める」
- 同じ EQ でも歪みの前後で仕事が変わる