組み込み回路 14 · LDO の内部回路

Chapter 14

LDO の内部回路

この章がなぜ必要なのか——LDO は「置けば動く」部品ではないから.

LDO は「誤差アンプ + パストランジスタ」の負帰還回路である。 中身を 1 枚の絵として持てば、上の全部が説明できる。

この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). ESR(02 章 2 節)、インダクタ(02 章 7 節)、コンデンサ(02 章 7 節)、タンタル(02 章 3 節)、ほぼゼロ(04 章 4 節)、ショットキー(04 章 4 節)、スイッチング電源(05 章)、増幅(05 章 2 節)、熱設計(05 章 9 節)、制御(06 章 6 節)、飽和(06 章 3 節)、ループ利得(08 章 1 節)、反転(08 章 2 節)、PLL(09 章)、ループ帯域(09 章 3 節)、初期精度(10 章 1 節)、温度ドリフト(10 章 1 節)、誤差アンプ(10 章 2 節)

1. まずリニアレギュレータとは何か

入力電圧と出力電圧の差を、トランジスタで「熱として捨てる」方式である。

VINパストランジスタVOUTR1R2+−V_REF誤差アンプ= 非反転増幅
LDO は「基準電圧を増幅する非反転アンプで、出力段が巨大なもの」。V_OUT = V_REF(1 + R1/R2)

動作は単純な負帰還である。

  1. 出力を分圧して、基準電圧 \(V_{REF}\) と比べる
  2. 出力が低ければ、パストランジスタをもっと開ける
  3. 出力が高ければ、閉じる

結果として \(V_{FB} = V_{REF}\) になるように落ち着く。 よって:

\[ V_{OUT} = V_{REF}\left(1 + \frac{R_1}{R_2}\right) \]

これは 08 章の非反転増幅そのものである。 LDO は「基準電圧を増幅する非反転アンプで、出力段が巨大なもの」と見てよい。

効率——ここが最大の弱点

パストランジスタは可変抵抗として振る舞う。入出力の差分電圧に、 負荷電流がそのまま流れる。

\[ P_{loss} = (V_{IN} - V_{OUT}) \times I_{OUT} + V_{IN} \times I_Q \]
\[ \eta = \frac{V_{OUT} I_{OUT}}{V_{IN}(I_{OUT} + I_Q)} \approx \frac{V_{OUT}}{V_{IN}} \]

効率は電圧比でほぼ決まる。 電流をどう工夫しても改善しない。

\(V_{IN}\)\(V_{OUT}\)効率\(I_{OUT}=500\) mA での損失
3.6 V3.3 V92 %0.15 W
5.0 V3.3 V66 %0.85 W
5.0 V1.8 V36 %1.6 W
12 V5.0 V42 %3.5 W
12 V3.3 V28 %4.35 W

12 V → 3.3 V で 500 mA を LDO で作ってはいけない。 4.35 W は SOT-223 パッケージでは確実に燃える。

判断基準(覚えておくと事故らない).

条件選ぶもの
損失 \((V_{IN}-V_{OUT})I_{OUT}\) が 0.5 W 以下LDO でよい
0.5〜1 W熱設計を計算した上で LDO、または DC-DC
1 W 超スイッチング(15 章)
ノイズに極めて敏感(ADC 基準、RF、アナログ)DC-DC の後に LDO(2 段)
電池駆動で待機が長い低 \(I_Q\) の LDO、または PFM の DC-DC

2. ドロップアウト電圧——「LDO」の Low Drop-Out とは

入力と出力の差が小さくても動作を維持できるのが LDO の定義である。

\[ V_{DO} = V_{IN(min)} - V_{OUT} \]

これはパストランジスタの構造で決まる。

パストランジスタの 3 つの方式

(a) NPN ダーリントン(旧来型・78xx など)

VINNPNNPN制御V_DO ≈ 2·V_BE + V_CE(sat) ≈ 1.7 VVOUTNPN ダーリントン(78xx など)
出力より 2·V_BE 高いベース電圧が要るので、ドロップアウトが大きい。これは LDO ではない

出力を上げるには、ベースを \(V_{OUT} + 2V_{BE}\) まで上げる必要がある。 しかしベース駆動は VIN から取るので:

\[ V_{DO} \approx 2 V_{BE} + V_{CE(sat)} \approx 1.4 + 0.3 = 1.7\ \text{V} \]

78xx(LM7805)が「5 V を出すのに 7 V 以上必要」なのはこれ。 これは LDO ではなく「標準ドロップ」レギュレータ。

(b) PNP パストランジスタ(初期の LDO)

VINPNP制御V_DO = V_CE(sat) ≈ 0.2〜0.5 Vただしベース電流 I_C/β を捨てるVOUTPNP パストランジスタ(初期の LDO)
飽和させればよいのでドロップアウトは小さいが、ベース電流がグラウンドに捨てられる

飽和させればよいので:

\[ V_{DO} = V_{CE(sat)} \approx 0.2\text{〜}0.5\ \text{V} \]

弱点: PNP のベース電流が捨てられる(\(I_B = I_C/\beta\))。 \(\beta = 50\)、\(I_{OUT} = 500\) mA なら 10 mA が無駄に流れる。 これを グラウンド電流(\(I_{GND}\)) と呼ぶ。ドロップアウト付近では さらに β が落ちて悪化する。

(c) PMOS パストランジスタ(現代の LDO の主流)

VINPMOS制御V_DO = I_OUT × R_DS(on)(電流に比例)ゲート電流がほぼゼロなので I_Q も小さいVOUTPMOS パストランジスタ(現代の主流)
ドロップアウトはオン抵抗による電圧降下そのもの。電流が小さければ数十 mV まで下がる
\[ V_{DO} = I_{OUT} \times R_{DS(on)} \]

電流に比例する。 \(R_{DS(on)} = 0.2\) Ω、\(I_{OUT} = 500\) mA なら \(V_{DO} = 100\) mV。

さらに MOS はゲート電流がほぼゼロなので、 \(I_Q\) が小さい(1 µA 級の製品も存在する)。

方式\(V_{DO}\)\(I_Q\)備考
NPN ダーリントン1.5〜2 V5 mA78xx。安定だが今は使いにくい
PNP0.2〜0.5 V数 mA(負荷依存)電流を捨てる
PMOS\(I \cdot R_{DS(on)}\)1 µA〜100 µA現代の標準。ただし発振しやすい

重大な誤解: 「LDO だから 3.3 V 入力で 3.3 V 出せる」ではない.

出せない。\(V_{IN} \geq V_{OUT} + V_{DO}\) が必要である。 \(V_{DO} = 200\) mV なら 3.5 V 以上の入力が要る。

ドロップアウトを割ると LDO はただの抵抗になる。 出力は入力に追従して下がり、リプルも素通しになる(PSRR がゼロになる)。

リチウム電池(3.0〜4.2 V)から 3.3 V を作る回路は、 電池が減ると必ずここに入る。 よくある事故。

LDO のドロップアウトと効率を見る

入力電圧・出力電圧・負荷電流を変えて、 出力が追従する領域/ドロップアウト領域、効率、損失電力を見る。

3. 発振——LDO の最大のトラブル

LDO は負帰還ループなので、位相余裕が足りないと発振する(08 章)。

ループの中にある極

誤差アンプパストランジスタ出力分圧この一周がループ。極が 2 つあれば位相が 180° 遅れて発振する
LDO は負帰還ループそのもの。安定性の議論はオペアンプとまったく同じ枠組みで考える
極位置由来
\(f_{p1}\)(出力極)\(\dfrac{1}{2\pi R_L C_{OUT}}\)出力容量と負荷抵抗
\(f_{p2}\)(誤差アンプ極)内部で決まるアンプの出力抵抗とゲート容量
\(f_{z}\)(ESR ゼロ)\(\dfrac{1}{2\pi \cdot ESR \cdot C_{OUT}}\)出力コンデンサの ESR

極が 2 つあると位相が最大 180° 遅れる → 発振する。

そこで「ESR によるゼロ」で位相を戻す。 ゼロは位相を +90° 進めるので、極の 1 つを打ち消せる。

これが「ESR 範囲」の正体である.

古い LDO のデータシートには、 「出力コンデンサの ESR は 0.3〜3 Ω であること」 というグラフ(トンネル図、Tunnel of Death)が載っている。

これが「セラミックコンデンサに替えたら発振した」の原因である。 タンタル(ESR 〜1 Ω)を MLCC(ESR 〜10 mΩ)に替えると、 ゼロが 100 倍高い周波数に飛んで、補償が消える。

セラミック対応 LDO

現代の LDO の多くは 「Ceramic Capacitor Stable」「Any-Cap」 をうたう。 これは内部で補償を作っている(ESR に頼らない)ものである。

具体的には、内部にゼロを作る回路を持つ、または 出力段のポールを支配的にして単極系に近づける設計になっている。

それでも制約はある.

セラミック対応品でも、データシートには必ず 「\(C_{OUT}\) は 1 µF 以上」「10 µF 以下」 のような範囲がある。

そして MLCC は DC バイアスで容量が半分以下になる(02 章)。 「10 µF を付けたつもりが実効 3 µF で下限を割っていた」 は非常に多い事故。

必ず「実効容量」で範囲に入っているか確認すること。

負荷電流でも安定性が変わる

出力極は \(f_{p1} = 1/(2\pi R_L C_{OUT})\) である。\(R_L = V_{OUT}/I_{OUT}\) なので、

「軽負荷で発振する」「無負荷だと不安定」 はここから来る。 だから多くの LDO は最小負荷電流を要求するか、 内部にプリロード抵抗を持っている。

LDO の安定性を確かめる

出力容量・ESR・負荷電流を変えて、 ループ利得と位相余裕、そしてステップ応答(リンギング/発振)を見る。

4. PSRR——電源ノイズをどれだけ落とせるか

\[ \text{PSRR} = 20\log_{10}\frac{\Delta V_{IN}}{\Delta V_{OUT}}\ \ [\text{dB}] \]

LDO のノイズ除去能力は、負帰還のループ利得そのものである。

\[ \text{PSRR} \approx \text{PSRR}_{\text{開ループ}} + 20\log_{10}(1 + A\beta) \]

ループ利得は周波数が上がると落ちる(07 章)。だから:

周波数PSRR の目安
DC〜1 kHz60〜80 dB
10 kHz50〜70 dB
100 kHz30〜50 dB
1 MHz10〜30 dB
10 MHz 以上ほぼゼロ(出力コンデンサ頼み)

「DC-DC の後に LDO を置けばノイズが取れる」の落とし穴.

DC-DC のスイッチング周波数は典型的に 500 kHz〜3 MHz。 まさに LDO の PSRR が落ちている帯域である。

「PSRR 70 dB」というデータシートの見出し数字は 100 Hz や 1 kHz の値。 2 MHz では 20 dB しかないことが普通にある。

対策:

さらに重要な点:

ドロップアウト付近では PSRR がほぼゼロになる。 パストランジスタが全開になっていて、入力の変動を制御できないからである。

「3.6 V 入力・3.3 V 出力」のような設計は、 効率はいいが PSRR は期待できない。

5. 過渡応答——負荷が急変したとき

MCU が Wi-Fi 送信を始めた瞬間に 10 mA → 200 mA、というような変化が起きる。

負荷電流出力電圧ΔVΔV ≈ I·Δt/C_OUT + I·ESR負荷が急に増えた瞬間、LDO はまだ気づいていない
この降下がブラウンアウト閾値に触れると MCU がリセットする。「Wi-Fi 送信の瞬間だけ落ちる」の正体

なぜ落ちるか:

  1. 負荷が増えた瞬間、LDO はまだ気づいていない
  2. その間、出力コンデンサが電流を供給する
  3. 誤差アンプがループ帯域(〜数十 kHz)の時間スケールで反応する
  4. その間に \(\Delta V = \dfrac{I \cdot \Delta t}{C_{OUT}} + I \cdot ESR\) だけ落ちる

\(I = 190\) mA、応答時間 \(\Delta t = 5\) µs、\(C_{OUT} = 10\) µF(実効 4 µF):

\[ \Delta V = \frac{0.19 \times 5\times10^{-6}}{4\times10^{-6}} = 238\ \text{mV} \]

これが MCU のブラウンアウト閾値を割ると、リセットする。

対策効果
出力容量を増やす直接効く。ただし安定性の上限に注意
ESR の小さいコンデンサESR による瞬時ドロップが減る
応答の速い LDO を選ぶデータシートの Load Transient 波形を見る
負荷の近くにバルク容量配線インダクタンスの影響を減らす
ソフト側で電流の立ち上がりを緩める可能なら最も効く

6. データシートの読み方

項目見るべき点
\(V_{DO}\)最大負荷電流での値、かつ 高温での値。「typ 100 mV」は最良条件
\(I_Q\)無負荷時か、負荷時か。シャットダウン電流は別項目
出力精度初期精度 + 温度 + 入力変動 + 負荷変動の合計。±1 % は初期値だけのことが多い
\(C_{OUT}\) 条件範囲と ESR 範囲。実効容量で満たすこと
PSRRグラフを見る。数値 1 個は無意味
出力ノイズµVrms(10 Hz〜100 kHz)。ADC 基準や PLL には効く
Load Transient波形を見る。条件(電流ステップ量、スルーレート、\(C_{OUT}\))も
熱抵抗 \(\theta_{JA}\)パッケージと基板の銅箔面積の条件付き。条件が違えば無意味
短絡保護/熱シャットダウンあるか。ラッチかリトライか
逆流保護出力が入力より高くなったときに壊れないか

出力精度の実態.

あるカタログの「±1 %」は 25 ℃・公称条件での値である。 全条件では:

要因寄与
初期精度±1.0 %
温度ドリフト±0.5 %
ライン変動±0.1 %
負荷変動±0.3 %
合計(最悪値)±1.9 %

3.3 V なら ±63 mV。 ADC の基準電圧に LDO の出力をそのまま使ってはいけない理由がここにある (10 章参照)。

7. 実務——回路の周辺

基本の外付け

部品役割目安
\(C_{IN}\)入力インピーダンスを下げる。配線インダクタンスとの共振を抑える1〜10 µF + 0.1 µF
\(C_{OUT}\)安定性と過渡応答データシート指定を厳守
\(C_{NR}\)(ノイズリダクション)基準電圧のノイズを落とす10 nF〜1 µF。起動が遅くなる
逆流防止ダイオード出力 > 入力になる構成で必要ショットキー

よくある事故

事故原因
発振する\(C_{OUT}\) の ESR 範囲外、実効容量が下限割れ、配線が長い
出力が入力に追従して下がるドロップアウトを割っている
熱い/熱シャットダウンする損失計算をしていない。\(\theta_{JA}\) の条件を満たす銅箔がない
起動しない大容量負荷 + 突入電流で保護がかかる。ソフトスタートを見る
電源 OFF 後も電圧が残る出力に負荷がなく、\(C_{OUT}\) が放電しない。放電抵抗 or アクティブディスチャージ品
入力より出力が高くなって壊れた入力側が先に落ちる電源シーケンス。逆流保護品か外付けダイオード
リプルが取れないPSRR の周波数を見ていない
精度が出ない分圧抵抗を基板の熱源の近くに置いた(外付け調整型の場合)

熱設計を 1 行でやる.

\[ T_J = T_A + \theta_{JA} \times P_{loss} \]

SOT-23-5、\(\theta_{JA} = 250\) ℃/W、\(T_A = 60\) ℃、\(P = 0.3\) W:

\[ T_J = 60 + 250 \times 0.3 = 135\ ^\circ\text{C} \]

125 ℃ の上限を超えている。 熱シャットダウンが働く。

\(\theta_{JA}\) は基板の銅箔面積で大きく変わる(同じパッケージで 250 ℃/W と 120 ℃/W の差が出る)。データシートの測定条件 (「1 平方インチの銅箔」など)を必ず確認すること。

LDO の熱と負荷応答を見る

損失・熱抵抗・周囲温度から接合部温度を計算し、 熱シャットダウンまでの余裕を見る。あわせて負荷ステップ時の出力降下も。

まとめ

ポイント内容
構造誤差アンプ + パストランジスタの負帰還。非反転アンプと同じ
出力電圧\(V_{OUT} = V_{REF}(1 + R_1/R_2)\)
効率\(\eta \approx V_{OUT}/V_{IN}\)。工夫で改善できない
使う境界損失 1 W 超ならスイッチングにする
ドロップアウトNPN 1.7 V / PNP 0.3 V / PMOS \(I\cdot R_{DS(on)}\)
割ったらただの抵抗になる。PSRR もゼロ。電池駆動で必ず起きる
発振極が 2 つ。ESR ゼロで位相を戻すのが古典 LDO
ESR 範囲タンタル → MLCC の置き換えで発振する典型
セラミック対応品内部補償。それでも容量範囲があり、DC バイアス減衰に注意
軽負荷出力極が下がって不安定になりうる。最小負荷の規定を確認
PSRRループ利得そのもの。1 MHz では 10〜30 dB しかない
DC-DC + LDODC-DC のスイッチング周波数が LDO の苦手帯域に入っていないか
過渡応答落ちる量は \(I\Delta t/C_{OUT} + I\cdot ESR\)。ブラウンアウトの原因
精度±1 % は初期値のみ。全条件では ±2 % 程度。ADC 基準には使わない
熱\(T_J = T_A + \theta_{JA}P\)。\(\theta_{JA}\) は銅箔面積次第

次章では、効率の壁を越える方法—— インダクタにエネルギーを貯めて配る スイッチングレギュレータを扱う。