Chapter 05
パルスレーダー — 距離を測る
この章のゴール.
パルス幅が距離分解能を、パルス繰り返し周波数(PRF)が測れる最大距離を決める—— この 2 本の対応を導出込みで身につけること。 ここで出てくる概念(分解能・曖昧さ・ブラインド)は、FMCW にもそのまま再登場する。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). アンテナ(01 章 2 節)、パルスレーダー(01 章 5 節)、位相・波長(02 章 2 節)、送信電力 \(P_t\)(02 章 4 節)、SN 比(03 章 3 節)、積分(03 章 5 節)
1. パルス方式 — 打っては、聴く
最も素直なレーダーは、短い電波の塊(パルス)を打ち出し、送信を止めてエコーを待つ。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| パルス幅 \(\tau_p\) | 1 発のパルスの長さ [s]。マイクロ秒〜ナノ秒 |
| PRI(Pulse Repetition Interval) | パルスを打つ間隔 [s]。パルス繰り返し周期 |
| PRF(Pulse Repetition Frequency) | 1 秒あたりのパルス数 = \(1/\text{PRI}\) [Hz] |
パルスを打った瞬間を時刻 0 として、エコーが \(\tau\) 秒後に届けば、01 章の式で \(R = c\tau/2\)。 記号を混同しないように: \(\tau_p\) はパルス 1 発の長さ(送る側が決める)、\(\tau\) はエコーが戻るまでの往復時間(目標の距離で決まる)で、通常 \(\tau \gg \tau_p\) である。 横軸を時間(=距離)にとってエコーの強さを描いた表示をA スコープと呼ぶ。 アンテナを回転させながら、円の中心をレーダー、中心からの距離を目標距離、円周方向を方位として目標を点で描いた円形表示が PPI(Plan Position Indicator)である。 中心から伸びる輝線がぐるぐる回り、通過した所に目標の点が残る、あの画面である。
2. 距離分解能 — 2 つの目標を分けられる条件
距離分解能 \(\Delta R\) とは、「2 つの目標をどこまで近づけても別々に見えるか」の限界距離である。
導出する。距離 \(R_1\) と \(R_2 = R_1 + \Delta R\) に 2 つの目標があるとき、 エコーの到着時刻の差は往復ぶんで
それぞれのエコーはパルス幅 \(\tau_p\) の長さを持っている。 後ろのエコーの先頭が、前のエコーの尻尾より遅く着けば分離できる。境目は \(\Delta\tau = \tau_p\)、つまり
直感: パルスは空間に浮かぶ「棒」である.
幅 \(\tau_p\) のパルスは、空間では長さ \(c\tau_p\) の棒として飛んでいく。 \(\tau_p = 1\) µs なら 300 m の棒だ。 2 つの目標の間隔が棒の半分(往復のため半分になる)より狭いと、 2 つのエコーは 1 本につながってしまい、区別できない。 「細かく見たければ短い棒=短いパルス」——これが第一の結論である。
| パルス幅 \(\tau_p\) | 分解能 \(\Delta R\) |
|---|---|
| 1 µs | 150 m |
| 100 ns | 15 m |
| 10 ns | 1.5 m |
| 1 ns | 15 cm |
パルス幅と PRF を調整する
Web 版のこの見出しの下には動く図がある。2 つの目標を置いてパルス幅を変えると、エコーが融合・分離する様子が見える。 PRF を上げて、遠い目標が「次の周期」に化ける様子(4 節)も試せる。
3. ブラインドレンジ — 近すぎると見えない
パルスを送信している間、受信機は使えない(強大な送信波が回り込むため、受信機を切り離しておく)。 送信が終わる前に戻ってきたエコーは受け取れないから、最短でも
より近くは見えない。これをブラインドレンジ(blind range、死角距離)と呼ぶ。 \(\tau_p = 1\) µs なら手前 150 m が丸ごと死角である。 2 節 の分解能と同じ式になるのは偶然ではない。どちらも「空間に浮かぶ長さ \(c\tau_p\) の棒が、往復のため半分の \(c\tau_p/2\) として効く」という同じ量で、 分解能はそれを2 つの目標の距離差に、ブラインドレンジは目標までの距離に当てはめたものである。 長距離レーダーが長いパルス(=大エネルギー)を使いつつ近距離も見たいときは、 長短のパルスを交互に打つなどの工夫をする。
4. 距離の曖昧さ — 「前のパルスのエコー」問題
PRI ごとにパルスを打つということは、エコーがどのパルスに対する返事なのかが問題になる。
次のパルスを打つ前にエコーが帰ってくる、と言い切れる最大距離は
これを最大不明確距離(maximum unambiguous range)と呼ぶ。英語の unambiguous は「曖昧でない」の意味で、「曖昧さなしに測れる最大の距離」と読む。 それより遠い目標のエコーは次のパルスの直後に届き、 レーダーは「すぐ近くの目標」と誤解する。これをセカンドタイムアラウンドエコーという。
数値例. PRF = 10 kHz なら \(R_{\text{ua}} = 15\) km。 20 km 先の山からの強いエコーは、往復 133 µs = PRI(100 µs)+ 33 µs 後に届くので、 「5 km 先の目標」として現れる。距離が PRI で折り返される—— 一定間隔でしか観測しないために本来の値と別の値が区別できなくなる現象をエイリアシング(折り返し)と呼ぶ。 信号を一定間隔で数値化(サンプリング)すると高い周波数が低い周波数に化ける(DSP シリーズ 01 章)のと完全に同じ構造である。
対策も知られている: PRF を数種類切り替えて打つと、 本物の目標は同じ距離に居座るが、折り返した偽目標は PRF ごとに見かけの距離が動くので見分けられる。
5. デューティ比と平均電力 — エネルギーの帳簿
パルスレーダーは休み時間が長い。送信している時間の割合をデューティ比と呼ぶ。
送信中の電力(ピーク送信電力)を \(P_t\) とすると、平均送信電力は \(P_{\text{avg}} = P_t \cdot d\)。 典型的なパルスレーダーは \(d = 0.1\,\%\) 程度——ピーク 1 MW でも平均 1 kW のような世界である。
検出を決めるのはピーク電力ではなく、エコーに含まれるエネルギーである.
03 章で見たように、SN 比は積分(複数のエコーを足し合わせること。高校数学の ∫ ではなく「足し算」の意味)で稼げる。突き詰めると効くのは 「目標に当てたエネルギーの総量」= \(P_t \times \tau_p \times\)(足し合わせたパルス数)である。 ここからパルスレーダー最大のジレンマが生まれる—— エネルギーを稼ぐには \(\tau_p\) を長くしたい。しかし分解能 \(\Delta R = c\tau_p/2\) は短くしたい。 両立の答えが次章のパルス圧縮である。
6. PRF 選択のジレンマ — 距離とドップラーの綱引き
PRF は高くも低くもしたい、相反する事情を抱えている。 速度側の事情を先に 1 行で言っておく。速度は連続するパルス間でエコーの位相がどれだけ回ったかから測る(07 章)が、 位相は 360° 回ると元に戻って区別できないので、1 PRI の間に位相が 180° 以上回るほど速い目標(\(|v| > \lambda \cdot \text{PRF}/4\))は別の速度に化ける。 これが速度の折り返し(速度の曖昧さ)で、PRF が低いほど早く起きる。
| PRF を | 良いこと | 困ること |
|---|---|---|
| 低くする | \(R_{\text{ua}}\) が伸びる(遠くまで曖昧さなし) | 単位時間のパルス数が減り積分が稼げない。速度の折り返しがきつくなる |
| 高くする | 積分が稼げる。速度の折り返しが起きにくい | \(R_{\text{ua}}\) が縮む(距離が折り返す) |
距離の曖昧さと速度の曖昧さはトレードオフであり、両方を一度に消す PRF は存在しないことが多い。 これは 07 章(ドップラー)で速度側の式を導出してから、もう一度立ち返る。
7. この章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 用語 | パルス幅 \(\tau_p\)・PRI・PRF。A スコープと PPI |
| 距離分解能 | \(\Delta R = c\tau_p/2\)。パルスは長さ \(c\tau_p\) の棒 |
| ブラインドレンジ | 送信中は聴けない。\(R_{\min} = c\tau_p/2\) |
| 距離の曖昧さ | \(R_{\text{ua}} = c/(2\text{PRF})\)。超えると近距離に折り返す(エイリアシング) |
| エネルギー | デューティ比 \(\tau_p \cdot \text{PRF}\)。検出はエネルギーで決まる → 長パルスと高分解能の両立が課題 |