Chapter 15
分散分析 (ANOVA) — 変動を分解して 3 群以上を比べる
この章がなぜ必要なのか——「t 検定を繰り返せばいい」が通用しない.
3 つの薬 A・B・C を比べたい。「A vs B」「B vs C」「A vs C」と t 検定を 3 回やればよさそうだ。 これは間違いである。
各検定の第 1 種の誤り率が 5% でも、3 回やれば全体で \(1-0.95^3 = 14.3\%\) になる。群が 5 つなら 10 通りの比較で 40%。 「どこかで有意」がほぼ確実に起きてしまう。
分散分析は、まず「どこかに差があるか」を 1 回の検定で判定する。 そしてその原理は、02 章から積み上げてきた「変動を二乗和で測る」という考えの、 最も美しい応用である。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). 標本・統計量(01 章 2 節)、「偏差の和は 0」(02 章 2 節)、i.i.d.(04 章 5 節)、 条件付き期待値 \(E[Y\mid X]\)・条件付き分散と分散分解の公式(06 章 8 節)、正規分布 \(N(\mu,\sigma^2)\)(08 章 4 節)、 χ² 分布・標本分散との関係・直交分解(08 章 7 節)、F 分布(08 章 9 節)、 有意水準 \(\alpha\)・第 1 種の誤り(12 章 4 節)、検出力・効果量(12 章 5 節)、 t 検定・ウェルチの t 検定・対応あり t 検定(13 章)、ブラウン・フォーサイス検定(14 章 7 節)、Q-Q プロット(14 章 8 節)。 本章で残差と言えば、各データの群平均からのずれ \(x_{ij}-\bar x_{i\cdot}\) を指す。
1. 多重比較問題(この章の動機)
\(k\) 群のペアは \(\binom{k}{2}\) 通り。各検定が独立なら、少なくとも 1 回誤る確率(ファミリーワイズ誤り率)は
| 群数 \(k\) | 比較数 \(m\) | FWER |
|---|---|---|
| 2 | 1 | 5.0% |
| 3 | 3 | 14.3% |
| 4 | 6 | 26.5% |
| 5 | 10 | 40.1% |
| 10 | 45 | 90.1% |
10 群あれば、真の差が 1 つもなくても 9 割の確率でどこかが「有意」になる。 これを制御するのが分散分析(と 17 章の多重比較法)である。
2. 一元配置分散分析
設定
\(k\) 群、第 \(i\) 群のデータは \(x_{i1},\dots,x_{in_i}\)、全体で \(N=\sum n_i\)。
モデル
\(\mu\) は全体の平均水準、\(\alpha_i\) は第 \(i\) 群の効果(全体からのずれ)、\(\varepsilon_{ij}\) は偶然誤差で、互いに独立に平均 0・分散 \(\sigma^2\) の正規分布に従う(すべての群で同じ \(\sigma^2\))。 \(\mu\) と \(\alpha_i\) の分け方には自由度がある(\(\mu\) を 1 増やして全部の \(\alpha_i\) を 1 減らしても同じモデル)ので、条件を 1 本置いて決める。 \(\sum n_i\alpha_i=0\) と置くと、全データの平均の期待値がちょうど \(\mu\) になり、\(\alpha_i\) は「群 \(i\) が全体平均からどれだけずれるか」と読める。 \(H_0\) は「すべての \(\alpha_i=0\)」と同じ。
平方和の分解(この章の核心)
各データ点について、恒等式を書く。
(添字の位置に \(\cdot\) を書いたら「その添字について平均した」という記法。\(\bar x_{i\cdot} = \frac{1}{n_i}\sum_j x_{ij}\) = 第 \(i\) 群の平均、\(\bar x_{\cdot\cdot} = \frac1N\sum_i\sum_j x_{ij}\) = 全体平均。)
両辺を二乗して全体で足す。
交差項が消える: \(i\) を固定すると \((\bar x_{i\cdot}-\bar x_{\cdot\cdot})\) は定数なので外に出せて、
(02 章の「偏差の和は 0」)。よって交差項は 0。したがって
| 記号 | 名前 | 式 | 自由度 |
|---|---|---|---|
| \(SS_T\) | 全平方和 | \(\sum\sum(x_{ij}-\bar x_{\cdot\cdot})^2\) | \(N-1\) |
| \(SS_{\text{群間}}\) | 群間平方和 | \(\sum_i n_i(\bar x_{i\cdot}-\bar x_{\cdot\cdot})^2\) | \(k-1\) |
| \(SS_{\text{群内}}\) | 群内平方和 | \(\sum_i\sum_j(x_{ij}-\bar x_{i\cdot})^2\) | \(N-k\) |
自由度も足し算になる: \((N-1) = (k-1)+(N-k)\)。
これは幾何学的にはピタゴラスの定理である. \(N\) 個のデータを並べた \(N\) 次元のベクトルを、「各成分を自分の群平均に置き換えたベクトル」(群の効果)と「残差 \(x_{ij}-\bar x_{i\cdot}\) のベクトル」に分解している。 上で示した「群内の偏差の和は 0」は、この 2 つのベクトルの内積が 0(直交する)ということを式で書いたものであり、同じ事実の 2 つの言い方である。 直交するベクトルの和の長さの二乗は、各長さの二乗の和になる(ピタゴラスの定理)——それが \(SS_T = SS_{\text{群間}} + SS_{\text{群内}}\) である。08 章 7 節で標本分散を扱ったときと同じ構造である。
06 章の分散分解の公式 \(V[Y]=E[V[Y|X]]+V[E[Y|X]]\) が、標本版として現れたものでもある。 \(X\) を「群番号」、\(Y\) を測定値と読めば、\(E[V[Y|X]]\)(群内分散の平均)が \(SS_{\text{群内}}/N\)、\(V[E[Y|X]]\)(群平均のばらつき)が \(SS_{\text{群間}}/N\) に対応する。
平均平方と F 統計量
平方和を自由度で割る(平均平方)。
なぜこれが F 分布になるのか: \(H_0\) のもとでは
で、しかもこの 2 つは独立である。理由は次のとおり。
- 群内: 各群で \(\sum_j(x_{ij}-\bar x_{i\cdot})^2/\sigma^2\) は 08 章 7 節 の標本分散の結果から \(\chi^2_{n_i-1}\)。群どうしは独立なので、和は自由度 \(\sum_i(n_i-1) = N-k\) の χ²(χ² の再生性)。これは \(H_0\) に関係なく成り立つ。
- 群間: \(H_0\) のもとで群平均 \(\bar x_{i\cdot}\) は独立に \(N(\mu, \sigma^2/n_i)\) に従うので、\(\sqrt{n_i}\,\bar x_{i\cdot}\) は独立な正規変数 \(k\) 個。\(SS_{\text{群間}} = \sum_i n_i(\bar x_{i\cdot}-\bar x_{\cdot\cdot})^2\) は、この \(k\) 個から「全体平均方向」の 1 成分を除いた残り \(k-1\) 次元の二乗和で、08 章 7 節 で \(\sum(X_i-\bar X)^2\) が \(\chi^2_{n-1}\) になったのとまったく同じ議論で \(\sigma^2\chi^2_{k-1}\)。
- 独立: \(SS_{\text{群内}}\) は各群の群内偏差だけの関数、\(SS_{\text{群間}}\) は群平均だけの関数。08 章 7 節 で \(\bar X\) と \(s^2\) が独立だったのと同じ理由で、各群の平均とその群の群内偏差は独立なので、両者は独立。
F 分布の定義(08 章 9 節)より
∎
F 統計量の意味を言葉で.
$$F = \frac{\text{群による差}}{\text{群内の偶然のばらつき}}$$
\(H_0\) が真(群に差がない)なら、群間のばらつきも群内のばらつきも 同じ \(\sigma^2\) を測っているので、比は 1 前後になる。 群に本当に差があれば分子だけが膨らみ、F が大きくなる。
「分散分析」という名前は、平均を比べるのに分散を使うことから来ている。 名前だけ見ると分散の検定に見えるが、実際には平均の検定である。
分散分析表
| 要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | F |
|---|---|---|---|---|
| 群間 | \(SS_{\text{群間}}\) | \(k-1\) | \(MS_{\text{群間}}\) | \(MS_{\text{群間}}/MS_{\text{群内}}\) |
| 群内(誤差) | \(SS_{\text{群内}}\) | \(N-k\) | \(MS_{\text{群内}}\) | |
| 全体 | \(SS_T\) | \(N-1\) |
例題
3 群、各 5 個。
| 群 | データ | 平均 |
|---|---|---|
| A | 12, 14, 11, 13, 15 | 13 |
| B | 16, 18, 15, 17, 19 | 17 |
| C | 13, 12, 14, 15, 11 | 13 |
全体平均 \(\bar x_{\cdot\cdot} = 14.33\)。
\(F(2,12)\) の上側 5% 点は 3.89(F 分布表)。\(10.67 > 3.89\) なので棄却(p ≈ 0.002)。どこかに差がある。
3. 効果量
| 指標 | 式 | 意味 |
|---|---|---|
| \(\eta^2\)(イータ二乗) | \(SS_{\text{群間}}/SS_T\) | 全変動のうち群で説明できる割合 |
| \(\omega^2\)(オメガ二乗) | \(\dfrac{SS_{\text{群間}}-(k-1)MS_{\text{群内}}}{SS_T+MS_{\text{群内}}}\) | \(\eta^2\) のバイアスを補正した版 |
上の例では \(\eta^2 = 53.33/83.33 = 0.64\)(64% を群が説明)。
\(\omega^2\) の式の出所: モデルのもとで \(E[SS_{\text{群内}}] = (N-k)\sigma^2\)、\(E[SS_{\text{群間}}] = (k-1)\sigma^2 + \sum_i n_i\alpha_i^2\) である(群間平方和は、群に差がなくても偶然のばらつきで \((k-1)\sigma^2\) ぶん正になる)。 だから \(\eta^2\) は真の割合 \(\dfrac{\sum n_i\alpha_i^2}{\sum n_i\alpha_i^2 + N\sigma^2}\) を過大に見積もる。 分子から偶然のぶん \((k-1)\hat\sigma^2 = (k-1)MS_{\text{群内}}\) を引き、分母は \(E[SS_T] = \sum n_i\alpha_i^2 + (N-1)\sigma^2\) に \(\hat\sigma^2 = MS_{\text{群内}}\) を足して \(N\sigma^2\) ぶんに合わせたのが \(\omega^2\) である。
\(\eta^2\) は 18 章の決定係数 \(R^2\)(回帰で「全変動のうちモデルで説明できる割合」)とまったく同じものである. 実際、分散分析は「群 \(i\) に属せば 1、でなければ 0」というダミー変数を説明変数にした重回帰(説明変数が複数の回帰。19 章)と数学的に同一であり、 \(\eta^2 = R^2\) になる。別々の手法に見えて、中身は同じなのである。
4. 事後検定 (post-hoc test)
分散分析で有意になっても、「どの群とどの群が違うか」は分からない。そこで事後検定を行う。
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| テューキーの HSD | すべてのペア比較。FWER を厳密に制御。最も標準的 |
| ボンフェローニ | \(\alpha/m\) で判定。単純だが保守的 |
| ホルム法 | ボンフェローニの改良。常により良い。推奨 |
| ダネット検定 | 対照群 vs 各処置群だけを比較。比較数が少ないぶん強力 |
| シェフェ法 | 任意の対比に対応。最も保守的 |
テューキーの HSD
各群のサイズが等しく \(n\) のとき、スチューデント化された範囲分布を使う。これは「\(H_0\) のもとで \(k\) 個の群平均の(最大 − 最小)を \(\sqrt{MS_{\text{群内}}/n}\) で割った統計量」の分布で、上側 \(\alpha\) 点 \(q_\alpha(k, N-k)\) は表または統計ソフトで求める。
群平均の差がこれを超えたら有意。「最大と最小の差」の分布で判定するので、どのペアを見ても FWER が \(\alpha\) に収まる。 群サイズが不揃いなら \(n\) の代わりに 2 群のサイズの調和平均 \(2/(1/n_i+1/n_j)\) を使う(テューキー・クレーマー法)。
「まず ANOVA、有意なら事後検定」が伝統的な手順だが、 現代ではテューキー法を直接使ってもよいとされる(テューキー自体が FWER を制御しているため)。 ただし報告の慣例として ANOVA 表を先に示すことは多い。
5. 二元配置分散分析
2 つの要因(A と B)の効果を同時に調べる。要因 A の水準数を \(a\)、要因 B の水準数を \(b\) とし、各セル(A の水準 \(i\) と B の水準 \(j\) の組)で \(n\) 回ずつ測る(つり合い型)。 \(k\) 回目の測定を \(x_{ijk}\) と書く。
| 項 | 意味 |
|---|---|
| \(\alpha_i\) | 要因 A の主効果 |
| \(\beta_j\) | 要因 B の主効果 |
| \((\alpha\beta)_{ij}\) | 交互作用 |
平方和は 4 つに分解される(\(SS_A, SS_B\) は要因 A・B の主効果、\(SS_{AB}\) は交互作用、\(SS_E\) は誤差=セル平均からの残差の平方和。2 節 の群間・群内とは別の記号)。
| 要因 | 自由度 | F |
|---|---|---|
| A | \(a-1\) | \(MS_A/MS_E\) |
| B | \(b-1\) | \(MS_B/MS_E\) |
| A×B | \((a-1)(b-1)\) | \(MS_{AB}/MS_E\) |
| 誤差 | \(ab(n-1)\) |
交互作用が最も重要
交互作用とは「要因 A の効果が、要因 B の水準によって変わる」こと。
例: 薬の効果が男女で違う。肥料の効果が土壌によって違う。 広告の効果が年代によって違う。
交互作用があるとき、主効果を単独で解釈してはいけない。 「薬 X は平均的に 5 の効果がある」と言っても、男性で +15、女性で −5(男女同数なら平均 +5)なら、 その「平均 5」は誰にも当てはまらない数字である。
必ず交互作用プロット(横軸に A、縦軸に平均、B ごとに線を引く)を描く。 線が平行なら交互作用なし、交差していれば強い交互作用がある。
6. 分散分析の前提
| 前提 | 検証法 | 崩れたときの対策 |
|---|---|---|
| 各群が正規分布 | 残差の Q-Q プロット | \(n\) が大きければ頑健。小さければクラスカル・ウォリス |
| 等分散性 | ブラウン・フォーサイス検定、残差プロット | ウェルチの ANOVA |
| 独立性 | 実験デザインを確認 | 線形混合モデル(混合効果モデルとも)、反復測定 ANOVA |
等分散が崩れたときの対処が実務では重要. 群のサイズが等しければ ANOVA は等分散のずれにかなり頑健だが、 サイズが不揃いだと危険である。 特に「小さい群の分散が大きい」場合、第 1 種の誤りが大きく膨らむ。
対策は 13 章と同じで、各群の分散を別々に推定するウェルチの ANOVA(R では
oneway.test関数)を使えばよい。
7. 反復測定分散分析
同じ個体を複数条件で測る場合(13 章の対応あり t 検定の \(k\) 群版)。
個体差を誤差から分離できるので検出力が高い。
個体間のばらつき \(SS_{\text{個体}}\) を誤差から抜き出したぶん、\(MS_E\) が小さくなり F が大きくなる。
追加の前提: 球面性 (sphericity). 「すべての条件ペアの差の分散が等しい」という条件が必要になる。 同じ個体の測定は相関しているので、条件ペアごとに差の分散が違うと、F の分母 \(MS_E\) がそれらをひとまとめに平均してしまい、F 検定の第 1 種の誤り率が \(\alpha\) を超える。 球面性はモークリーの検定(球面性を帰無仮説とする検定)で確認し、崩れていればグリーンハウス・ガイサー補正——F の分子・分母の自由度に係数 \(\epsilon\)(\(0<\epsilon\le 1\)、ずれが大きいほど小さい)を掛けて棄却点を厳しくする——で調整する。 現代では線形混合モデルを使うことでこの問題を回避できるため、そちらが増えている。
8. 共分散分析 (ANCOVA)
連続の共変量 \(z\)(例: 実験前のベースライン値)を調整してから群を比較する。
(\(\gamma\) は共変量 \(z\) が \(x\) に効く傾き、\(\bar z\) は全データの \(z\) の平均。)
利点: 共変量が説明する変動を誤差から取り除けるので、検出力が上がる。 また、群間で共変量が偏っている場合の調整にもなる。
前提: 回帰の平行性. 各群で \(z\) と \(x\) の傾き \(\gamma\) が共通であること。 群ごとに傾きが違うなら、それは「群 × 共変量の交互作用」があるということで、 ANCOVA の枠組みではなく交互作用項を入れたモデルにすべきである。
ANCOVA は実質的に重回帰の一形態である(19 章)。 分散分析も回帰も、すべては一般線形モデル——「応答 = 説明変数の線形結合 + 正規誤差」という形のモデル全体の総称——という 1 つの枠組みの中にある。
9. まとめ
| 手法 | 使う場面 |
|---|---|
| 一元配置 ANOVA | 1 要因、3 群以上 |
| 二元配置 ANOVA | 2 要因、交互作用も見る |
| 反復測定 ANOVA | 同一個体を複数条件で |
| ANCOVA | 共変量で調整 |
| ウェルチの ANOVA | 等分散が崩れているとき |
| クラスカル・ウォリス | 正規性が疑わしいとき(16 章) |
- t 検定を繰り返すと誤り率が膨らむ。3 群で 14%、5 群で 40%。
- 分散分析の核心は \(SS_T = SS_B+SS_W\) という直交分解(ピタゴラスの定理)。
- \(F = MS_B/MS_{\text{群内}}\) は「群による差 ÷ 偶然のばらつき」。\(H_0\) のもとで 1 前後。
- 有意になったら事後検定でどのペアかを調べる(テューキー or ホルム)。
- 交互作用があるときは主効果を単独で解釈しない。必ずプロットを見る。
- 分散分析は回帰の特別な場合である(19 章)。\(\eta^2 = R^2\)。