Chapter 12
サブGHz・独自無線と SDR — 規格外の電波を捕まえる
この章のゴール.
BLE や Wi-Fi のような「道具が揃った」無線ではなく、サブ GHz 帯(315/433/868/915 MHz など)の 独自プロトコルや、リモコン・センサの生の電波を、SDR(ソフトウェア無線)で観測・解析する 入口をつかむこと。合法性の枠(受信は基本自由、送信は規制)も押さえる。
この章で使う既出の用語(定義は各リンク先). USB(01 章 2 節)、アナログ(01 章 2 節)、オラクル(01 章 8 節)、仕様書(01 章 3 節)、差分(01 章 3 節)、規格(01 章 3 節)、SDR(02 章 4 節)、サンプリング(04 章 2 節)、ファジング(10 章)
1. 「規格がない」無線をどう見るか
産業機器・リモコン・気象センサ・独自メッシュなどは、BLE でも Wi-Fi でもないサブ GHz の独自方式を使うことが多い。仕様書がなく、道具も特化していない。ここで武器になるのが SDR(Software Defined Radio、ソフトウェア無線)——電波を可能な限り生のデジタルデータとして取り込み、変調の解読をソフトウェア側で行う受信機である。「アナログの世界(04 章・07 章)を無線に広げたもの」と考えるとよい。
サブ GHz とは、おおむね 1 GHz 未満の周波数帯(例: 433 MHz、868 MHz、915 MHz)を指す。障害物に強く到達距離が長いので、低速・長距離の IoT でよく使われる。国ごとに使える周波数と出力が法律で決まっている。
2. SDR の道具立て
- RTL-SDR: 数千円の USB ドングル。受信専用だが入門に最適。約 24〜1700 MHz を聞ける
- HackRF One / LimeSDR / bladeRF: 送受信できる高機能機(送信は規制対象、後述)
- ソフト:
GQRX/SDR#(スペクトルを眺める)、GNU Radio(信号処理をブロックで組む)、Universal Radio Hacker (URH)(変調・符号化の解析に特化)、rtl_433(既知のサブ GHz センサを自動デコード)
まずは RTL-SDR + rtl_433 で「身の回りのセンサが何を垂れ流しているか」を体験するのが分かりやすい。
rtl_433 -F json # 対応済みの温湿度計・タイヤ空気圧計などを自動デコードして表示3. 電波を「見る」— スペクトラムとウォーターフォール
無線観測の基本表示は二つ。
- スペクトラム: 横軸=周波数、縦軸=強さ。「どの周波数に信号があるか」の瞬間の絵
- ウォーターフォール: 横=周波数、縦=時間(下へ流れる)、色=強さ。「いつ・どの周波数で・どれだけ」出たかを時間で追える。ボタンを押した瞬間にどこが光るかが見える
対象の周波数(多くは 315/433/868/915 MHz のどれか、機器の技適・FCC 表示や基板の水晶で当たりをつける)にチューニングし、動作させてどこが光るかを探すのが第一歩。
4. 変調を解く — 生の電波から意味へ
信号を見つけたら、それを「意味のあるビット列」に落とす。手順はおおむね:
- 変調方式を見分ける: ON/OFF(OOK/ASK、振幅を切る)か、周波数を振る(FSK)か。ウォーターフォールの形で見当がつく
- シンボル速度(1 ビットの長さ)を測る: 波形の最短パルス幅から。ロジアナのサンプリング(04 章)と同じ発想
- 符号化を解く: マンチェスタ符号、プリアンブル、同期語、長さ、チェックサム
- 再現して確かめる: 同じ操作を繰り返し、ビット列のどこが変わるか(ボタン番号、カウンタ、CRC)を差分で突き止める
URH はこの 1〜4 を GUI で支援してくれる(自動でパルス幅を推定し、ビット列を並べ、繰り返し送信を比較できる)。
5. 送信は「規制」— 合法性の線引き
観測(受信)は基本的に自由だが、送信には強い法規制がある。日本では技適、多くの国で同様の認証・帯域・出力の制限がある。テストで能動的に電波を出す(リプレイ、ファジング)場合は:
- 原則、有線や近接・シールド環境で。電波暗室・シールドボックスに入れて外へ漏らさない
- 自分の機器・自分の帯域に限る。他者の通信や免許帯を邪魔しない
- 送信できる SDR(HackRF 等)は強力なので、法令と社内規程を確認してから
本書は観測・受動解析を中心に据える。能動送信テストは、環境と権限が整った場でのみ行うこと。
6. 何をオラクルにするか
- 出している電波が想定の周波数・帯域幅・タイミングに収まる(余計な放射がない)
- ペイロードに秘密が平文で乗っていない、リプレイ攻撃に弱くない(毎回同じビット列=危険、17 章)
- 動作(ボタン等)と電波が期待どおり対応する
- 送信出力・デューティが設計・法規の範囲
7. 手を動かす
スペクトラムと変調を読む
この章のポイント
- 規格外・独自のサブ GHz 無線は SDR(ソフトウェア無線)で生の電波として捕まえる
- 道具は受信入門の RTL-SDR、送受信の HackRF、解析の URH、自動デコードの
rtl_433 - スペクトラム(周波数×強さ)とウォーターフォール(+時間)で「どこがいつ光るか」を見る
- 変調→シンボル速度→符号化→再現差分、の順でビット列の意味を解く
- 受信は自由、送信は規制。能動テストはシールド環境と法令順守が前提